2024年08月01日朝日新聞(夕刊)
ファンと歩んだ野外ライブ、本当に「最後」
南こうせつ、武道館で「サマーピクニック」
シンガー・ソングライターの南こうせつ(75)が、ライフワークとして1980年代から続けてきた野外コンサート「サマーピクニック」に終止符を打つ。9月に開く「ラストサマーピクニックin武道館」は、ともに年を重ねてきたファンに対する思いも込めた集大成になりそうだ。
81~90年は毎年。その後は99年以降、5年や10年おきに、九州を中心に開催してきた。
もともと、福岡・海の中道海浜公園で開催した前回(2019年)を最後にするつもりだった。「サマーピクニック~さよなら、またね~」といういかにもな副題もつけていた。
「仮のタイトルには『またね』もなく『さよなら』だけでした。そうしたら、ファンの方々が寂しいって言うんです。うそでもいいから『またね』を入れて、と」
一方、公演終了後しばらくすると、ファンから「『またね』と言いましたよね」という声が……。「そんな脅迫めいた声が増えまして(笑)。これは、どこかでちゃんと『最後』と言わないと終わらないと思いました」
1970年のデビュー後に結成したフォークバンド、かぐや姫の「神田川」で大ブレーク。「妹」「赤ちょうちん」などを歌った20代の頃と同じように、ふわりとした力みのない高音は健在だ。
しかし、本人は変化を感じている。
「キーを落とさずに歌えるのは、何となく今、この辺までかなと自分では思います。のども筋肉なので、スポーツ選手と一緒で、年とともに衰えるんですね。恥ずかしいことでもなく、自然なこと」。それが、ライフワークに区切りをつける一つのきっかけになったという。
映画で見た69年の米ウッドストック・フェスティバルに触発され、吉田拓郎とともに、75年に静岡県内のリゾート施設「つま恋」での野外コンサートを実現させた。その後、自分の故郷・大分県がある九州で野外コンサートを開こうと考えたのが、サマーピクニックの始まりだった。
本当に音楽が好きな人に来て欲しかった。「来られるものなら来てみろ」。なかば挑発的に開催した初回は「できるだけ不便なところ」を探し、熊本県産山村のリゾート施設「卑弥呼の里」を選んだ。
「福岡から徒歩、東京から自転車、北海道からバイクで来た人もいた」。全国から8千人が集まったが、激しい雷雨で中止に。宿舎に戻ろうとした時、雨がやんだ会場に一部の客が残っていたのが見えた。たまらず戻ってギターで数曲歌い、気付いたらこう口走っていたという。
「また来年やるから。10年続けるから」
その後のサマーピクニックでも、こんな「けんか」を売ったり買ったりし合ってきたファンも南とともに年齢を重ねた。平均年齢は「60歳は超えていると思う」。ラストの会場を屋内の武道館にしたのは、ファンと、南自身の体力をそれぞれ考慮した結果でもあるという。
「当時10代だった人が、家庭を持ったりお孫さんができたり、定年退職したりして、またサマーピクニックに集まってくれるのはうれしい。何か、人生という感じがしますね。今回は屋根がありますから、クーラーボックスも蚊取り線香も要りませんから。ぜひ来て欲しいです」
9月23日午後5時に開演。さだまさし、森山良子がゲストとして出演予定。電話0570・550・799(キョードー東京)
(野城千穂)
(7月24日 毎日新聞)
(6月28日 読売新聞)