取り上げようと思いつつ、長らく忘れていた日本経済新聞記事。こういうこと、最近よくあって困る。

 

 

令和なコトバ「ハラ・ハラ」 それ嫌がらせ、が嫌がらせ

 

これは今年の5月11日に同紙に掲載されていたライターの福光恵氏が連載している「令和なコトバ」のひとつ。

 

自分が生きた過去の時代の感覚や慣習を、現代を生きる人たちに押し付けるのはどうかと常々思っているが、自分の感覚の選択肢にないものや、少しでも自分が不快と感じたことに対して「ハラスメント」を錦の御旗宜しく、騒ぎ立てるのもいかがなものか。

「要はトレンドあるところハラスメントあり」「ハラ・ハラ連鎖が続く予感も...」。氏の言葉、まったくそのとおり。

 

 

令和なコトバ「ハラ・ハラ」 それ嫌がらせ、が嫌がらせ
2024年5月11日 日本経済新聞


 誰もが知る流行語なき時代の新語を採掘し、世の中を知る「令和なコトバ」。世にハラスメントの種は尽きまじ、の昨今です。ハラスメントがハラスメントを呼び、といういささか戯画的な状況を指すのが「ハラ・ハラ」という言葉。実例をケーススタディーしながら、ライターの福光恵さんが専門家に取材しました。

 「セクシャル・ハラスメント」が新語・流行語として注目されたのは、平成が始まった1989年。うれしい言葉ではないのだが、その後、平成最大の新語・流行語と言っていいほど世間に定着してしまった。同時に、各種○○ハラスメントは、きょうもその裾野を広げている。

 2021年に刊行された「トラブル回避のために知っておきたい ハラスメント言いかえ事典」(朝日新聞出版)を開くと、それでもまだ知らなかった○○ハラスメントの多いこと。一例がSNSの流行とともに生まれた「ソーシャル・ハラスメント」、略してソーハラだ。SNSを使った嫌がらせや、友人登録の強要などがこれに当たる。

 コロナ禍で在宅勤務が広がると「リモート・ハラスメント」が誕生。オンラインのコミュニケーションで起きるパワハラなどのことで、オンライン会議中に子どもが騒いでいる部下に「バカガキがうるさいな!」は、アウト。「会議中だけでも静かにお願いできない?」もグレーゾーン。ここはやさしく「何かあったら、相談してね」が正解だ。

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 要はトレンドあるところハラスメントあり。最近は部下から上司へなど、立場が逆転した逆ハラスメントなるものも増えているらしい。そこで今週のお題、「ハラスメント・ハラスメント」、略して「ハラ・ハラ」だ。逆ハラスメントの一つで、不都合なことや不快なことを何でもハラスメントと騒ぎ立てる、ハラスメントのハラスメントのことをこう呼ぶ。

 例えば上司から誘われた飲み会を断るとき。「課長に飲み会を強要された! これパワハラですよね!」は、ハラ・ハラ。「それって強制参加ですか? プライベートの時間を取られたくないんですけど」もグレーゾーンとなる。「お誘いありがとうございます。飲み会は苦手なので遠慮させてください」が、模範的な対応となるという。

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 この本の監修者で、ハラスメント研修専門講師も務める山藤祐子さんによると、正当な指導とハラスメントを混同したこんなハラ・ハラ事例があったという。何度も同じ間違いをするため、先輩社員から重ねて指導を受けることになった新入社員。「不適切発言もなく、パワハラとはいえない指導なのに、本人はパワハラだと思い込んで、会社中に主張。会社を辞めるときにも、『会社も先輩も訴える』と捨てゼリフを残していった話が実際にありました」
 また「ChatGPTに上司のことを相談したところ、それはパワハラだと言われた」との理由で上司を異動させろと訴えた、まさにトレンディーなハラ・ハラ部下なんかもいたそうだ。

 まあ、ハラスメントと認定されるのが怖くて、言いたいことも言えなくなったという上司世代の声はよく聞く。でも、ハラスメント→ハラスメント・ハラスメントと来て、今度は「ハラスメント・ハラスメントが過ぎる部下を許せない!」という「ハラスメント・ハラスメント・ハラスメント」とか、ハラ・ハラ連鎖が続く予感も……。あのー、ハラハラ言い過ぎて舌かんだんですが、この原稿もハラスメントってことはないです、よね?
 (福光 恵)
 

 

※カバー写真:2024年6月13日筆者撮影/長谷寺