中島みゆきと出会った「時代」へ

所沢の角川美で展覧会


2024年5月3日 日本経済新聞

 

 

 1975年にデビューし、「時代」や「糸」などの楽曲で知られる歌手の中島みゆきさん。初の大規模展覧会が角川武蔵野ミュージアム(埼玉県所沢市)で開催されている。公演の「夜会」でまとった衣装などを展示するほか、リクエストした曲をレコードで流してくれるコーナーも設ける。

 中島さんの代表的な肩書は歌手だが、あるときはラジオパーソナリティー、あるときは小説家と様々な顔を見せてきた。同ミュージアムで4月中旬から6月23日まで続く「中島みゆき展『時代』2024めぐるめぐるよ時代は巡る」は、歌手の枠にとらわれず表現者として進化し続けた中島さんの足跡をたどる。展示会場はレコードを模し、円形に作られている。来場者は時間が許せば、全部で7つに分かれた展示コーナーを何周もできる。

 会場でまず目に入る「中島みゆきストリート」は、デビューからの年譜を細かく記している。1〜5月の最新のコンサートツアーの情報も記載するなど、今の足跡も映す展示だ。およそ半世紀にわたる活動をたどるなかで、中島さんと出会った時代を思い出し、タイムスリップしたような気分に浸れる。

 展示会場のBGMは「レコード万歳」という展示コーナーから流れている。好きな曲をカードに記入してリクエストすると、スタッフがレコードをかけてくれる。音響についてはヤマハから最新鋭の機器を導入しており「展示のためだけにスタッフにレコードのかけ方をレクチャーした」(角川武蔵野ミュージアム・ゼネラルプロデューサーの宮下俊さん)というこだわりようだ。

 中島さんが原作から脚本、楽曲までを手がけるステージ「夜会」は、1989年から20年にわたり続く。中島さんが身につけた衣装、舞台美術担当の堀尾幸男さんが作った舞台模型など、普段目にする機会の少ない展示物が並ぶ。舞台裏に迫り、コアなファンをもうならせる。

 企画を主導した宮下さんは1975年、中学校1年生のころに中島みゆきさんの楽曲と出合った。1人のファンとして活動を注目し、コンサートに足を運んできた。「ファンという集団をひとくくりにせず、一人一人に音楽を届けたいという中島さんの思いに感銘を受けた」という。

 今回の展示は、来場者が十人十色の楽しみ方をすることに主眼を置く。宮下さんは「人生の節目で、時代の見出しとなるような楽曲があるのではないか。中島さんと自身の一対一の接点を探ってほしい」と話す。

 中島さんは52年に札幌市で生まれ、75年に「アザミ嬢のララバイ」でデビュー。「わかれうた」「ファイト!」「空と君のあいだに」「銀の龍の背に乗って」などのヒット曲を発表した。70年代〜2000年代と4つの年代でシングルチャート1位に輝いたのは日本の女性アーティストでただ1人。24年4月に始まったNHKのドキュメンタリー番組「プロジェクトX」の新シリーズでは、再び中島さんの「地上の星」が主題歌となった。 (荒牧寛人)