<2024.04.15>起稿

 

産経新聞

2024年4月14日(日)

日曜コラム

 

名前のない怪物

シンガー・ソングライター

さだまさし

 

(抜粋)

 自分の都合が全てに優先するという考え方は怪物の顔の一つ。誰が迷惑を被ろうとも自分の都合を押し通そうとするこの怪物。昔は利己主義と軽蔑したものなのだが、自分の心の都合が最優先されないとなると怪物は屈折して様々な形の牙を剥く。たとえば職場や学校での虐(いじ)めや、他人を汚すSNSの書き込みなどだ。あらん限りの罵詈雑言や脅迫まがいの悪辣(あくらつ)な言葉を吐き散らす本人が、普段は必ずしも悪辣な人物とは限らない。誰とも会わずに済む「覆面」の卑劣さの発露なのだ。時代劇では「卑怯者!名を名乗れ」と言う。名乗らずに斬りかかるような卑怯は侍の恥というわけだが、今は勧善懲悪も鼻先で笑う時代になった。

 さて仕事の話。どんな仕事にも毀誉褒貶(きよほうへん)は付きものだ。人を羨んでもキリが無く、人を侮れば後はない。淡々堂々と歩くことはとても難しいことだけれど、僕は幸運にも好きな仕事に恵まれ、好きならば苦しくても楽しく、どんな苦労でも我慢出来ることを仕事に教わった。これ程の幸せは無いと、天の神様に心から感謝しているところ。