<2024.03.03>起稿

 

中島みゆきは「空と君のあいだに」(1994年)で「君がすさんだ瞳で強がるのが とても痛い 憎むことで いつまでもあいつに縛られないで」と歌った。

自分に降りかかるいくつもの苦しみ悲しみ。いつしかすべて周囲のせいにして心がすさみ、誰かに対して憎しみまでもが生まれる。

 

気持ちはよく分かるが、憎むということ自体が相手に縛られ支配されていることであり、憎しみの中にいる限り、自分の新しい道は決して見えて来ない。

 

まして、やられたらやり返す、傷つけられたら傷つけ返す復讐の心に囚われれば、自分で自分を傷つけ、追い詰めていくだけである。



中島みゆき「友情」

1981年3月5日発売の8枚目のオリジナルアルバム『臨月』収録

 


2016年11月16日に発売されたライブビデオ/ライブアルバム『中島みゆきConcert「一会」2015〜2016』にも収録。

 

 

映像から、中島みゆきの歌に込めた気持ちが塊となって伝わる。ちなみにこの映像では一番の歌詞をまるまるカットして歌っている(ブックレット記載の歌詞も同様)。一番の歌詞内容を考慮してのことか。

何とも奥深く難しい歌詞。この歌を具体的にいつ作ったのかは分からないが、収録アルバム『臨月』が出たのは中島みゆきが29歳になった直後。

 

「友情」に限らず、それまでに出した楽曲の中にも奥深い歌詞はいくつも存在しているわけだが、その年齢でこういう歌詞を作ることができるのはやっぱり彼女の才能などと、通り一遍なことを言うつもりはない。

 

年齢ではなく、経験や物事を深く捉え、思索した結果だと思っている。彼女の「才能」もあるとは思うが、それ以上に彼女の「思索」と、それを歌詞に紡ぎ出す「努力」の結果だと。

(アルバム『臨月』)

 

ここで歌っているのは「友だち」との「友情」を想定していることはもちろんだと思うが、もっと広く、自分自身に「縁する人々」との「絆」と捉えている。端的に表現すれば「友情」

 

加えて「友情」と対比させ、自分自身の「孤独」を際立たせているような気もする。

私自身の周りの一切のことに目をつむり、縁を切り、自分一人になった時に果して未来は見えるのだろうか。

打算的で表面的な言葉ばかりが幅をきかせる。そこに本当の思いがないから、本当の絆を結べるはずもない。

 

(「友情」を歌う中島みゆき)


一番欲しいものはなんですか?

 

一番大切にしなければならないものはなんですか?

 

命を懸けても守らなければいけないものはなんですか?

自分のことだけを考え、人を損得の対象としかみない心無き時代の波は、心ある人々を飲み込んでいく。

そんな時代に諦めをつけて、シニカルな悟りは私にはまだ持てない。かと言って、世の中に大きな期待をかけて生きるほど、私が心に抱えている思いや苦悩は軽くない。

それは絶対に無理なことだが、自由気ままに生きていたいならひとりがいい。でもやっぱり誰かにそばにいて欲しい。安心して自分の気持ちを託せる人はどこにいるのか。

さも繋がりを大切にしているように見せながら、本心では、本当の意味での人との繋がりを嫌い、表面的で打算的な関係の中で、損得だけで人を見分ける―中島みゆきはそれを「背中にかくしたナイフ」と歌う。

「背中に隠したナイフ」の意味を問うように、「それはあなたの本心ですか?本当にそう思っていますか?」とあえて聞かないことが本当の友情だろうか?絆だろうか?

最も「救われない魂」は、最も忌み嫌うべきものは、最も縁を切らなければいけないものは、傷ついた自分自身なんかじゃない。傷つけられたことに対して、傷つけ返そうとしている自分の心だ。


中島みゆき Concert「一会」(いちえ)2015~2016 

※「友情」 09:28~10:24


悲しみばかり見えるから
この目をつぶすナイフがほしい
そしたら闇の中から
明日が見えるだろうか
限り知れない痛みの中で
友情だけが 見えるだろうか

企みばかり 響くから
この耳ふさぐ海へ帰るよ
言葉を忘れた魚たち
笑えよ 私の言葉を
終わり知れない寒さの中で
友情さえも 失っている

この世見据えて笑うほど
冷たい悟りもまだ持てず
この世望んで 走るほど
心の荷物は軽くない
救われない魂は
傷ついた自分のことじゃなく
救われない魂は
傷つけ返そうとしている自分だ

一番欲しいものは何ンですか
命賭けても守るものは何ンですか
時代という名の諦めが
心という名の橋を呑み込んでゆくよ
道の彼方にみかけるものは
すべて獲物か 泥棒ですか

この世見据えて笑うほど
冷たい悟りもまだ持てず
この世望んで走るほど
心の荷物は軽くない
救われない魂は
傷ついた自分のことじゃなく
救われない魂は
傷つけ返そうとしている自分だ

自由に歩いてゆくのならひとりがいい
そのくせ今夜も ひとの戸口で眠る
頼れるものは どこにある
頼られるのが嫌いな 獣たち
背中にかくした ナイフの意味を
問わないことが友情だろうか

この世見据えて笑うほど
冷たい悟りもまだ持てず
この世望んで走るほど
心の荷物は軽くない
救われない魂は
傷ついた自分のことじゃなく
救われない魂は
傷つけ返そうとしている自分だ

 

(同上)

 

【更新履歴】

2024.05.05再掲