2024年2月28日 朝日新聞
３４８人の８月９日、刻んで 「ナガサキノート」連載４０００回
小さな欄だけど、市井の人たちの被爆をめぐる体験と等身大の生活をすくいとり、次世代へ手渡そう――。２００８年８月から、長崎原爆をめぐる体験や核廃絶への思いを伝えてきた朝日新聞長崎版の「ナガサキノート」が、２８日付で４千回を迎えた。
■日常が一瞬で打ち砕かれた現実、伝えなきゃ 叔母に聞いた被爆体験、でも僕も持ち時間が さだまさしさん
原爆についてどう思うか、１６歳で被爆した叔母に単刀直入に聞いたことがあります。
「恨む話じゃない」というようなことを言っていました。「戦争が悪いんだ」って。
現実に被爆した人がまわりからどんどんいなくなる。だから叔母は、貴重な証言者だろうと思いました。長崎に生まれた子どもとして後世に語り残すにしても、「叔母はこんなことを言っていた」とちゃんと伝えてあげた方がいいだろうという思いがありました。
１９８０年代になってから、カセットテープを回して叔母とは何度も話しました。大事なところはメモしていました。何度も、茶飲み話をしながらどんな状況だったか克明に聞いたことがあります。
叔母は、飛行機の部品をつくっていたんじゃないかと言っていました。警報が鳴って、空を見上げてたら黄色いパラシュートが降りてきたというので、「あれ何だろう」と友達がいる地下室に駆け込んだ瞬間に、「ダン」と来たって。
方向も分からなくなり、感覚だけで歩いたようです。ふらふらと、もう相当あちこちけがしてたみたいです。裸足だったから、ひどい目にあったって言っていました。
耳の後ろに大きなけがをして、血がじわじわ出たって。ドクダミを煎じたのをバケツ一杯毎日飲まされてね。血をきれいにするからとか言われて。そのうち治ったそうです。
でも叔母はアメリカを恨んでいなかった。日本が先に原爆を作っていたら、見ず知らずの誰かが私と同じ目に遭う。日本がやらなくてよかったというニュアンスでしょうかね。
８７年から僕は「夏 長崎から」というコンサートを広島原爆の日に始めました。
借金で苦しかった時期ですが、コンサートは無料にしました。子どもを連れてピクニック気分で来られる。家族で音楽を聴くのが最高の平和の象徴だと思いました。
叔母はすごく楽しみにして、「あんたが歌えなくなるのが先か、私が死ぬのが先か」と言いながら、通っていました。叔母は内臓のがんをわずらい、６７歳で亡くなりました。
叔母のことを伝えるとき、自分の価値観が介入しちゃいけないと思っています。
でも歌は僕のものだから、僕の意見がいくら入ってもいい。（叔母の被爆体験などを元にした）「広島の空」は僕の意見として歌っています。
「キーウから遠く離れて」はウクライナ戦争が始まってすぐに作りました。ちょっと怒りすぎたかなと思ったんだけど。今自分が何を思っているかは、ちゃんと伝えなければいけない場所にいるので、責任がある。
ただ、僕はもう持ち時間がなくなってきたんだよね。年齢的に自分の発言するタイムリミットなんですよ。いのちで言うと危篤に入っている、予断を許さない状況。
この危篤が何年続くか分からないけど、その間に伝えきれることを伝えておかないと、死んでも死にきれないぞっていうところはあります。
日常生活が一瞬にして打ち砕かれた現実があった。そのことだけは伝えていかなきゃいけない。
（聞き手＝小川崇・３７歳、岡田真実・２６歳）
＊
１９５２年、長崎市生まれ。本名は佐田雅志。７３年、フォークデュオ「グレープ」でデビュー。７６年にソロ活動を開始し「関白宣言」や「北の国から」など多数のヒット曲を手がけた。８７年から２０年間、毎年８月６日に長崎市で平和祈念コンサートを開催。２００１年に自伝的小説「精霊流し」を発表し、長崎原爆にまつわる叔母のエピソードを描いた。デビュー５０周年のコンサートを実施中。
＜＝小玉重隆撮影＞
■ナガサキノートとは
長崎原爆をめぐる体験を伝えようと、２０～３０代の若手の記者らが主に担当し、本紙長崎版で２００８年８月１０日から始まった。１人の証言を１０回ほどに分けて、当初は毎日掲載。これまでに３４８人の証言を紹介してきた。現在は不定期で掲載している。２８日付で４千回を迎えた。
紹介した方々のうち、８月９～１０日に爆心地から数キロの範囲にいた約１５０人の足取りを３次元（３Ｄ）の地図上で再現したデジタル版も公開している。
さだまさし最新ライブ作品
「50th Anniversaryコンサートツアー2023～なつかしい未来～」
ティザー
（2024年３月１日公開）
レコードデビュー50周年を記念して昨年6月～8月に4夜にわたって開催された東京国際フォーラムホールA公演の模様を、余すことなく全65曲と大ネタ小ネタのトークを収めた最新ライブ作品「さだまさし50th Anniversaryコンサートツアー2023～なつかしい未来～」よりティザー映像を特別公開。
最新ライブ作品「さだまさし50th Anniversaryコンサートツアー2023～なつかしい未来～」2024年4月10日リリース！！
