春秋(2月23日)
2024年2月23日 日本経済新聞

 
 独創的な楽曲を数多く生み出したデビッド・ボウイは、冷戦を象徴する壁の近くでコンサートを開いたことがある。歌った曲は「ヒーローズ」。頭上で銃声が響く中、壁際でキスをする2人を歌った曲だ。「僕たちはヒーローになれる」。恋人たちの祈りを詞に乗せた。

 ▼壁の向こう側の東ドイツではこのとき、ボウイの歌を聴こうとたくさんの市民が集まっていたという。ベルリンの壁がハンマーで打ち砕かれたのはその2年後の1989年。世界が激しく動揺した年だ。中国では民主化を求める学生が、天安門広場で武力によって弾圧された。若者たちの希望と絶望のニュースが交差した。

 ▼海の向こうのそんな激動を横目に日本は同じ年、手を伸ばせばいまにも天に届きそうな高揚感の中にあった。不動産が値上がりし、「東京23区の土地でアメリカ全土が買える」とまで言われた時代。株価も天井知らずの勢いで上昇した。だがバブルのうたげは久しからず。はじめは静かに、やがて音を立てて崩れていった。

 ▼日経平均がきのう、89年12月につけた史上最高値を終値で超えた。株高は吉報だが、経済の実情は往時と異なる。10年あまり前に規模で中国に抜かれ、ドイツにも去年逆転された。むしろ願うのは、株価に見合う豊かさを実感できる世の中。新たな価値を創造する挑戦が、それを可能にする。見えない壁を打ち崩しながら。

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David Bowie - Heroes (Official Video)

 

(歌詞:映像タイアップ)

 

I, I wish you could swim
Like the dolphins, like dolphins can swim
Though nothing, nothing will keep us together
We can beat them for ever and ever
Oh we can be Heroes just for one day

ぼく、きみが泳げたらいいなと思う
まるでイルカのように スイスイ泳げたらと
だって何も僕らを繋ぎとめておかないし
僕らはヤツらを永遠に打ち負かせるのさ
ああ 僕らは1日だけでもヒーローになれる

I, I will be king
And you, you will be queen
Though nothing will drive them away
We can be Heroes just for one day
We can be us just for one day

ぼく ぼく は王になる
きみ きみは女王になれ
誰もヤツらを追い払うことができなくても
僕らは1日だけでも打ち負かせるんだ
僕らは1日だけでもヒーローになれる

I, I remember
Standing by the wall
The guns shot above our heads
And we kissed as though nothing could fall
And the shame was on the other side
Oh we can beat them for ever and ever
Then we can be Heroes just for one day

ぼく 思い出すよ
壁のそばに立っていた僕ら
銃は僕らの頭の上をかすめていき
僕らはキスをしたんだ
何も崩壊しなかったかのように
恥かしいのはアイツらの方さ
ああ 僕らは何度でも永遠に
ヤツらを打ち負かせるのさ
そう 僕らはヒーローになれるんだ
ほんの1日だけなら

We can be Heroes
We can be Heroes
We can be Heroes
Just for one day
We can be Heroes

ヒーローになれる
ヒーローになれるんだ
ヒーローになれる
ほんの1日だけなら
ヒーローになるんだ

 

引用:洋楽和訳 Neverending Music