今やラーメン一杯1,000円越えはざら。なぜそんなに高くなったのか?…ある人物のせいである。ラーメンの向こうに見える国際問題、経済問題。
記事冒頭の「ラーメンは健康食である」
それは本当か?私に言えることは、ラーメンは体調が悪い時には食べる気が起きないが、元気、すなわち健康な時にはラーメンを食べたくなる。ラーメンへの食欲の有無が健康のバロメーター。私の健康状態を計るまさに健康食。
(行きつけの家系ラーメン のり増し)
高橋弘希 ミクロラーメン経済学(プロムナード)
2024年1月17日 日本経済新聞(夕刊)
ラーメンは健康食である。
家系ラーメンならば三種の神器(具)が丼にのっており、チャーシューで蛋白(たんぱく)質、ほうれん草でビタミン、海苔(のり)でミネラルと、現代人に不足しがちな栄養素を余すことなく補える完全なる健康食である。よって私は、健康のために週7でラーメンを食べている。
が、昨今はラーメンの価格高騰に歯止めが利かぬ状態だ。私が足繁(しげ)く通う家系ラーメン店は、かつては700円だったが、昨年から段階的に値上げされ、ついには980円である。
私はラーメンを頼むとき、50円の煮卵をトッピングする。しかし煮卵をトッピングすると、合計で千円を超える。リボ払い債務者である私に、ラーメンで千円超えは抵抗がある。
そして私が煮卵をトッピングできるか否かに深く関わる、ある人物がいる。その人物のせいで、私はキャベツトッピングもキクラゲトッピングも控えねばならないのだ。
その人物とは何者か、ラーメン店を裏で牛耳る悪徳オーナーか、はたまた〝お約束の日〟を過ぎると我がスマホに電話をかけてくる督促係か、違う、その人物は、あのロシアの皇帝、ウラジーミル・プーチンである。
ラーメンとプーチンがどう繋(つな)がるのか、語呂が似てるだけじゃねぇか、という声が聞こえてきそうだが、まぁ最後まで話を聞いて欲しい。
そもそも昨今の物価高騰の一因に、エネルギー問題がある。光熱費は高騰して家計を逼迫し、ガソリン代に至っては170円を超えて政府が補助金を出す異常事態である。なぜエネルギー価格が高騰しているのか、そう、ロシアはエネルギー大国である。
経済制裁としてロシアからのエネルギー資源の輸入を禁止したはいいが、これによってエネルギー価格は相対的に高騰し、結果として他国まで経済制裁の余波を受ける羽目になってしまった。遥(はる)か北方で行われている戦争が、巡り巡って私のラーメンの煮卵という極小な世界にまで影響を及ぼしているのだ。
ではこのラーメン煮卵問題を解決するにはどうすれば良いか、私がトッピングを我慢すべきか、更なるキャッシングをすべきか、違う、そんなことは根本的な解決にならない、ただでさえ回らない首を締めあげるだけだ、そう、根本的な解決は、プーチンとゼレンスキーに仲良くなってもらうしかないのである。
戦争においては〝和平〟か〝正義〟かがよく問われる。相手と握手をするか、自国の正義を貫き通して相手を敗戦国にするか――、ノーベル平和賞も視野に入れている私としては、どうにかプーチンに和平の道を選んで欲しいものだが――。
さて、冒頭で紹介した家系ラーメンであるが、金を払わずとも煮卵トッピングができる、合法的手口を発見した。
利札(クーポン)を使うのである。
現代では債券の利札は電子化されているが、ラーメン屋のクーポン券もある意味では電子化されていた。店舗のX(旧ツイッター)をフォローすると、トッピングがサービスされるのだ。
マルクスもケインズも、スマホのボタンをポチリでクーポン券が得られる時代がくるとは予想だにしなかっただろう。私は己の『シン・資本論』に更なる自信を得つつ、さっそくXでラーメン店のフォローボタンをポチリするのであった。(小説家)