興味深いコラムがあったので。

 

「相手に勝つことではなく、自分の邪念に勝つこと」―それはスポーツに限ったことではなく、日々仕事をしていてもそうだし、何より一生続く自己錬磨と自己革新もまたそうだろう。

 

「春秋」はその内面の戦いを「純度の高い挑戦」と。なかなか言い得て妙、いい表現である。

 

※カバー写真:2023年11月26日筆者撮影/神宮外苑イチョウ並木

 

 

「遼君に生涯賃金追い越され」。第一生命のサラリーマン川柳コンクールにかつて寄せられた一句だ(春秋) 

2023年12月12日 日本経済新聞


 「遼君に生涯賃金追い越され」。第一生命のサラリーマン川柳コンクールにかつて寄せられた一句だ。10代でゴルフ界の頂点へと駆け上がる石川遼プロへの羨望と、自らを省みてのぼやきがにじむ。でも自分と比べてみる気になるだけ、まだ身近だったのかもしれない。

▼そう思いたくなる数字が飛び出した。1015億円。大谷翔平選手の契約額だ。何回人生をくり返したら追いつけるのか。途方もない額に驚くが、彼が私たちを魅了するのは野球にかけるストイックな姿勢ゆえだ。「一回も(外に)出たことがないのでわからない」。ニューヨークの街について聞かれたときにそう答えた。

▼評論家の小林秀雄は1959年元旦、「スポーツに思う」という随筆を本紙に寄稿した。決められた規則や方法を楽しみながら、個性を発揮するわけに思いをはせる。「勝つとは、実は相手に勝つことではなく、自分の邪念に勝つことだと本能的に承知している」。それがスポーツ精神の極意に達した選手の姿だと説いた。

▼世相に目を転じれば、今年も重苦しいニュースが相次いだ。年の瀬が迫る日本の政局を揺るがすのは、政治資金を巡る裏金疑惑。いかなる邪念ゆえの振る舞いか。ルールを逸脱する醜聞にため息が出そうな気分を、アスリートたちの活躍の報が温めてくれる。大谷選手はその頂にいるひとり。純度の高い挑戦の尊さを思う。