戦争で壊れる心 冷静に読めず
シンガー・ソングライター さだまさしさん 
 

2023年10月15日読売新聞

 


 読売新聞オンライン(YOL)の「Web気流」に「戦争投書アーカイブ~わたしが見た戦争」を、7月19日に新設して3か月を迎えます。被爆地・長崎市出身のシンガー・ソングライターのさだまさしさん(71)に、投書を読んでもらい、感想を聞きました。(聞き手 服部有希子)


 面白かったです。印象に残った投書がいろいろありました。
 1942年頃までは戦争への「覚悟」を語る内容が多かったです。でも43年になると、物不足に対して「文句を言うな」「工夫しろ」など、一気に殺伐としてきます。
 戦況が厳しくなる44年頃には愚痴や非難が増え、人心が荒廃するさまがはっきりと読み取れます。物資供出の中で指輪をしている人への怒りや、着飾る女性への文句もひどかった。敗戦へと向かって全てが落ちていくのが伝わります。人間を爆弾代わりに使うという発想も普通となります。
 敵国だけが悪で、自国は正義の戦いをしている——。そんなふうに社会の常識や正義が壊れているんです。戦争している国はみんなこう言いますね。終戦直前でも、国民を勝利へと鼓舞しているんですよ。敗戦濃厚にもかかわらず、そう訴えるしかない国民の気持ちは無残ですね。悲壮感が先に伝わり切なくて、冷静に読めませんでした。
 終戦間近の45年8月2日の「ポツダム宣言を読んで血が逆流するのを覚えた」と書かれた投書が強く心に残っています。
 <連合国は戦争犯罪人を処罰するなどと言って、国民は戦争犯罪人でないかのごとき印象を与えているが、戦争の責任は一億全ての肩にある>(抜粋)。こんな公平な人が当時もいたんですね。これを書いた人に会いたいと思いました。戦争犯罪人として裁かれた人にだけ戦争の責任があるわけではないでしょう。新聞だって戦争を賛美しました。そうせざるを得なかった事情があったとしても、国民全員が負うべき責任はあったと思います。
 日本人はもっと戦争の勉強をしなきゃだめですね。特に40~50歳代の大人にこそ戦時下の投書を読んでもらいたい。切々とした食べ物への苦労を知らない世代が高齢者となる前に、客観的にこの国のこと、そしてこの国の戦争を語れるかどうかは、将来にとって大事なことです。僕を含めた老人軍としては、そうした知識を持った戦力がほしいものです。
 価値観は人によって違うけど、勉強してから語ろう。何が正しくて何が間違っていたのか、戦争投書を通して是々非々で感じてほしいです。
 
 ◇さだ・まさし 1952年生まれ。73年にフォークデュオ「グレープ」としてデビュー、「精霊流し」で注目を集めた。76年にソロとなる。主なヒット曲は「雨やどり」「関白宣言」など。今年デビュー50周年を迎え、記念アルバム「なつかしい未来」をリリースし、アニバーサリーツアーも開催中。