2023年10月4日
読売新聞 [編集手帳]


 ♪砂まじりの茅ヶ崎 人も波も消えて…『勝手にシンドバッド』の歌い出しである。海岸の景色がぱっと頭に浮かぶ。川端康成「雪国」の「トンネルを抜けると…」に比べる人もいる◆桑田佳祐さんは歌の締めの部分、「胸さわぎの腰つき」について著書などで明かしている。スタッフから意味がわからないと言われ、「胸さわぎ残しつつ」または「胸さわぎのアカツキ」に変えろと提案された。これに逆らい、現在にいたっている◆桑田さんの曲は若者にも懐メロではない。世代を超え約7万人が4日間の茅ヶ崎ライブに訪れた。むろん、♪胸さわぎの…と合唱する場面もあったという◆サザンオールスターズはデビュー45周年になる。桑田さんが歌に織り込んだ湘南の風景としては、江の島や烏帽子(えぼし)岩が知られている。『夏をあきらめて』は叙景詩だ。♪波音が響けば雨雲が近づく…とはじまり、♪江の島が遠くにボンヤリ寝てる…と歌った。さみしい心のうちが海の景色とともに描かれている◆サザンが50周年を迎えれば、そのとき桑田さんは72歳。ステージで歌う「腰つき」が、いつまでも健在であることを。

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サザンライブ当日/茅ヶ崎公園野球場

(2023年9月27日朝日新聞)

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サザンオールスターズ - 希望の轍
 [Live at ROCK IN JAPAN FESTIVAL, 2018]

 

 

(2023年10月3日 読売新聞紙面)