今年の「ノーベル生理学・医学賞」に米ペンシルベニア大のカタリン・カリコ特任教授と同大のドリュー・ワイスマン教授の2人が選ばれた。2人は新型コロナウイルスのmRNAワクチンの開発で大きな貢献を果たした。
カタリン・カリコ氏(左)とドリュー・ワイスマン氏
(昨年4月、日本国際賞の授賞式で)2023年10月2日読売新聞
この受賞を報じたNHK NEWS WEB(2分14秒の動画)は以下。カリコ氏の研究が高い評価を受けるまでの苦難の日々も伝えている。
~カリコ氏の言葉(記事から)
「私は電話がかかってきたときに寝ていて、受賞が決まったという連絡は夫が受けました。誰かが冗談を言っているのかと思いました」(ノーベル財団との電話インタビュー)
「10年ほど前、ペンシルベニア大学から追い出されましたが、夫が私を支えてくれました。私の母は2018年に亡くなりましたが、『あなたがとるかもしれない』とノーベル賞の発表をいつも確認していました。母は『あなたは一生懸命頑張っている』と言ってくれていました。家族は私を信じてくれていて、娘たちも私が懸命に働く姿を見てくれていました」
「私は女性として、母として、同僚の女性の科学者たちに対し『家庭を持つことと科学者でいることのどちらかを選ぶ必要はない』と伝えています。子どもはあなたをみて、見習います。あなたが子どもの模範になることが重要なのです」
「多くの若い人たちは、友人や同僚がどんどん昇進していくのを見て、あきらめてしまいます。しかし、自分をあわれに思っている時間はありません。次に自分に何ができるのかを探すのにエネルギーや時間を費やすべきなのです」
「私にとり認められることは重要ではない。誰かの助けになっていることが嬉しい」(昨年4月、日本国際賞の授賞式で)
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2023年10月3日付の 朝日新聞コラム(天声人語)も「カリコ氏を励ました1冊」と題してカリコ氏の受賞を称えていた。
君はいいかげん年をとる前に自分が馬鹿なことをしているのに気がつくべきなんだよ――。生理学者のハンス・セリエ氏は若いころ、自らの研究について先輩学者から厳しく言われたことがあったという▼さぞ屈辱だったに違いない。後にストレス学の大家となったセリエ氏は、自著『生命とストレス』で若手研究者らを強く励ましている。たとえ何年も成果がでなくても、諦めてはいけない。自分を信じろ。新たな発見に必要なのは「長く味気のない期間にたえる楽天性と自信なのです」▼その本を高校時代に夢中になって読んだ少女が、新型コロナのワクチン開発で、ノーベル賞に選ばれた。「自分ができることに集中すること。他人がしていることや他人がするべきことを気にして時間の無駄遣いをするな」。カタリン・カリコ氏(68)は、セリエ氏の本にそう学んだと語っている(大野和基〈かずもと〉編『コロナ後の未来』)▼実際に、彼女の成功への道は苦難に満ちたものだった。大学の上司には「社会的に意義のある研究とは認めがたい」と言われ、降格の憂き目にもあった。悔しい思いを幾つも重ねたのだろう▼もしも、そこで彼女が諦めていたら、数百万人の命を救ったとされるワクチンはできていなかった。科学の進歩は常に、多様で自由な発想から生まれる▼いまこの瞬間も、あすの成功をどこかで夢見ながら、結果の出ない研究に悩んでいる若き科学者たちがいるのを想像する。カリコ氏の栄誉が彼らの励みにも、なるといい。