人は、なぜ他人を許せないのか?
■内容紹介(出版社)
炎上、不謹慎狩り、不倫叩き、ハラスメント...
世の中に渦巻く「許せない」感情の暴走は、
脳の構造が引き起こしていた!
人の脳は、裏切り者や社会のルールから外れた人など、わかりやすい攻撃対象を見つけ、罰することに快感を覚えるようにできています。
この快楽にはまってしまうと、簡単には抜け出せなくなり、罰する対象を常に探し求め、決して人を許せないようになってしまいます。
著者は、この状態を正義に溺れてしまった中毒状態、「正義中毒」と呼んでいます。
これは、脳に備わっている仕組みであるため、誰しもが陥ってしまう可能性があるのです。
他人の過ちを糾弾し、ひとときの快楽を得られたとしても、日々誰かの言動にイライラし、必要以上の怒りや憎しみを感じながら生きるのは、苦しいことです。
本書では、「人を許せない」という感情がどのように生まれるのか、その発露の仕組みを脳科学の観点から解き明かしていきます。
「なぜ私は、私の脳は、許せないと思ってしまうのか」を知ることにより、自分や自分と異なる他者を理解し、心穏やかに生きるヒントを探っていきます。
(本書概要紹介映像)
今、話題の「正義中毒」とは何か!?(3分14秒)
出版社アスコム「アスコムチャンネル」
■著者プロフィール
中野信子
1975年、東京都生まれ。
脳科学者、医学博士、認知科学者。
東京大学工学部応用化学科卒業。
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。
フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。
脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。
科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。
現在、東日本国際大学教授。
著書に『世界で活躍する脳科学者が教える! 世界で通用する人がいつもやっていること』『脳はなんで気持ちいいことをやめられないの?』(アスコム)、『サイコパス』『不倫』(文藝春秋)、『シャーデンフロイデ』(幻冬舎)、『キレる! 』(小学館)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。
■読後所感
本が売れない現代にあって、18万部を突破したというのはすごいことだと思うし、内容からすれば「売れるはずだ」とも思う。今後もまだ売れる可能性もあるので、内容を明かすような表現は避けた。
「SNSが隠れていた争いを「見える化」した」「正義中毒は人間の宿命」「日本で集団のルールに逆らうことの難しさ」「人間の脳は、対立するようにできている」「正義と同調圧力の関係」「「一貫性の原理」の罠」「正義中毒の快感と苦悩」「「なぜ許せないのか?」を客観的に考える」「正義中毒を乗り越えるカギはメタ認知」「いい出会いが、メタ認知能力を育てる」…全4章56項目、興味深い項目が並ぶ。特定の項目から読み進めても理解できるが、やはり最初から順を追って読むのがいい。
「他人を責める」「他人を許せない」心理の根っこには常に”自分が正しい””自分の見方、考え方こそが正義”という揺るぎない基準が、意識、無意識はともあれ、必ずある。だからこそ、その基準から外れる他人を責め、許せない心理が起こる。そしてSNSは良くも悪くも、その基準と心理を誰もが手軽に「見える化」させ「増幅」させることに大きな貢献を果たしている。
では、そもそも、人間の中になぜそうした基準と心理が生まれるのか、どうしたらそれらから解放されるのか。その理由を著者が脳科学の見地から、日常的にあり得る事例を通してとても分かり易く解く。
一般論としてこうした類の著作、本書で言えば「なぜ他人を許せないのか?」「それはこれこれこういう理由からだ」「では許せるようになるには、具体的になにをすればいいのか」といった具体に、解決策を提示するハウツーものと認識されがちなところがある。
現に著者もかつて「中野さんの本には解決策が書かれていない」と言われたことがあるという。しかし、ことは人間に備わっている解明が極めて難しい本性のようなもの。それを採り上げて、どの場面にも通用する特効薬的な解決策を導き出すのは不可能である。著者はそのことを充分認識していて「あとがき」で述べている。「万人によく効く正義中毒の治療法、人を許せる方法は、存在しません。(…)一般解は、ありません。だから困る、ということではなく、私はそれでいいいのだはないかと思うのです」(217~218㌻)
この本を読み進める中で「他人を許せるようになる具体的な方法が書かれていないじゃないか!」と著者を責め許せなくなることがないよう、私からのお願いとして、「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念を予め持って読むとよいかもしれない。それは、英国の詩人ジョン・キーツが生み出したと言われている言葉である。「ネガティブ・ケイパビリティ」とは「事実や理由をせっかちに求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」のこと。言い換えれば「分からないことを分からないまま、宙ぶらりんの状態で受け入れ、耐え抜くこと」。実は、そのことこそが「他人を責める自分」を開放するただ一つの包容力ある解決策ではないかと、読みながら考えていた。
2021/12/29 東洋経済ONLINE
(中野信子の本/一部)