<2023.8.26記事>

<2023.8.30再掲>

 

ことばのくすり

感性を磨き、不安を和らげる33篇

柳葉俊郎(軽井沢病院長)

 

大和書房/2023年5月1日

 

■本書紹介(大和書房)

 「歩くこと」も「食べること」も、実はスゴイこと? 医療と芸術の最前線にいる著者が、日常に潜む奇跡を鮮やかに照らしだす33篇。

 

■著者について(Amazonより)
 1979年熊本生まれ。医師、医学博士。軽井沢病院長にして、山形ビエンナーレ2020、2022 芸術監督。東京大学医学部付属病院時代には心臓を内科的に治療するカテーテル治療や先天性心疾患を専門とし、夏には山岳医療にも従事。医療の多様性と調和への土壌づくりのため、西洋医学だけではなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。国宝『医心方』(平安時代に編集された日本最古の医学書)の勉強会も主宰していた。未来の医療と社会の創発のため、伝統芸能、芸術、民俗学、農業・・など、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている。

 

■所感

 本書「はじめに」で著者が述べている。

 『「ことば」は「くすり」です。

 なぜなら、私たちは「ことば」に影響を受け、考え方や行動が変わることもあるからです。「ことば」は「くすり」にもなりますが、「くすり」は「リスク」であり、薬と毒と紙一重とも言われます』(1㌻)

 そのうえで本書は『私は「ことば」が「くすり」として及ぼす希望のある方向性をこそ、考えていきたいと思います』(3㌻)と表明しているとおり、「未明」「朝」「昼」「夜」「休日」など、私たちの一日のささいな行動に視線を定め、それら日常の中で著者が感じている点を、著者ならではの視点と筆致で33篇にまとめ、読者に「ことば」を送る。それらを通して、読者が「新しい1日を生き直し」(203㌻)、『あなたの中にある「新しい人」が目覚めるよう』(同)願いつつ。

 

 「朝のことば」の章の冒頭、「新しく始める、ということ」の中で、人間の中に存在する「光」と「影」、とくに「影」について光を当て意味づけている。一部引用する。

 「人はどうしても自分自身が光であることを求めるものです。ただ、光は影や闇によって支えられてもいます。(…)トラブルや災厄という短期的には負の体験としか考えられない思いがけない形で、自分の影は自分自身に復讐してくるのです。(…)そうした影に適切な居場所を与えることで、時に居心地の悪い思いをすることもあるでしょう。しかし、自分の影を認める経験を通じてこそ、人間性や人生に奥行きが生まれます。(…)

 大切なことは、影の中には必ず成長の種が潜んでいる、ということです。(…)自分が立ち向かえるようになった時期だからこそ、光と影が出会っている、と受け止め直すことが大事なのではないでしょうか。それは人生の中で、形を変えて何度も何度もやって来るものなのですから」(40~42㌻)

 内面の「光」と「影」はかつてより認識していて、自分なりに捉えている。「光」と「影」を認識し両方受けれ入れてこそ、自分自身の成長や深まりはあるものである。そのうえで、あらためてこうした「いいことば」で表現された文章に出会うことは、嬉しくもあり、安心感に包まれる。「いいくすり」を処方してもらったと思える。

 気軽に読めるので、ぜひ一読のうえ、自分に「いいことば」「いいくすり」を手にしていただきたいと思う。