大学時代、仲が良かった同期たちのお子さんが大学進学のため、全国各地から東京に出て来始めている。そんな年回り、ここ数年、その流れが続いている。

 

「4月から行くので頼むぞ」とLINEが来る。東京と言ってもそれなりに広いし、私がお子さんたちが下宿するアパートの近くに住んでわけでもないだろうけど、東京に行くとなるとあいつだ、という、やつらにしてみるととてもシンプルな発想のようだ。

 

(2023年3月30日筆者撮影)

 

まぁ、それはそれで嬉しい話しなので、同期の子どもということで、これまでも何人かにそうして来たように、まだ一度も会ったことがない人ばかりだけれど、入学後ちょっと落ち着いたら食事に誘ってあげようかな。

 

東京に出て来てから彼らはきっとアルバイトもするだろう。学生生活のリズムが狂ってしまうようなアルバイトは避けて欲しいもので、そんなことを考えていたら、カウンター的に「闇バイト」という言葉が浮かんだ。

 

「闇バイト」絡みの犯罪が凶悪化していたり、殺人にまで至ったケースもあるのはご存知のこと。

 

「闇バイト」が蔓延っている現状を改善するために、政府が「緊急対策プラン」を決めた(3月17日)。

 

(2023年3月18日日本経済新聞)

 

「実行犯を生まない」ことを第一として、具体的には「警察がインターネット接続事業者に働きかけて、SNS上の闇バイト投稿の確実な削除を進める」「AIを活用して闇バイト投稿で用いられる言葉などを自動検索し、投稿を素早く効率的に発見する」などの措置のようだ。

 

さらに別の視点で「被害に遭わない環境の構築」として、鍵をこじ開けにくい構造の窓や扉など防犯性の高い部品への交換、防犯カメラの増設などの措置を挙げる。

 

なんでも警視庁によると、昨年、闇バイト投稿に関して警告を発した件数だけでも3480件という。すそ野はもっと広いだろう。

 

闇バイト投稿に応じてしまう環境にある人だけでなく、その家族、友人、知人、身近にいる人を含めての啓発が必要なのだろう。加えて、難しい問題ではあるが、そうしたことを生み出す環境から変えるなど、社会挙げての対策が必要だと思う。

 

多くの大学がこの4月から、授業形態やクラブ活動などをコロナ前の状況に戻すと聞く。キャンパスライフでも感染防止に関する様々な制限がなくなる。

全国から集まってきた友達と、一生で一番楽しい時期を過ごすであろうことを思うと、自分の学生時代を思い出してもワクワクしてくる。ともあれ彼らが無事故で充実した学生生活になるように。

 

「闇バイト」に関して、3月25日の日本経済新聞コラム「春秋」が、若者への温かな視線を向けていた。

 

遠藤周作さんは大学卒業時に就職先がなく、出版社でアルバイトをした。仕事は原稿集め(春秋) 

2023/03/25 日本経済新聞

 

 遠藤周作さんは大学卒業時に就職先がなく、出版社でアルバイトをした。仕事は原稿集め。焼け野原の東京を歩き回り、遅筆の執筆者に泣いた。作家になって締め切りを守るのは「あの時の汗まみれの自分を思い出すからである」。本紙「私の履歴書」にあった逸話だ。
▼ドイツ語由来の「アルバイト」がそれまでの「内職」に取って代わったのは、ちょうど遠藤さんが汗していたころと重なっている。教育社会学者の岩田弘三さんは、戦後学費や生活費のために不本意な労働に携わらざるを得なかった学生に、カタカナ語の明るい語感が魅力的に響いたと分析する(「アルバイトの誕生」)。
▼そんな言葉も「闇」を冠したとたん禍々(まがまが)しくなる。「短期間で高収入」。怪しげな文句にひかれて犯罪に加担する若者が後を絶たない。特殊詐欺に窃盗、果ては強盗殺人まで。政府は緊急対策に乗り出した。AI(人工知能)で募集広告を削除するなどの作戦の成果を期待したいが、悪意を見極める本人の眼力も問われる。
▼4月からの新生活を前に、目を皿のようにして求人情報を見比べている若者は多いだろう。なかには、あすの食事や授業で使う教科書のために、という人がいるかもしれない。どんなバイトも大変だ。願わくは、人生の糧となるような汗まみれの経験を得る機会になってほしい。取り返しのつかない後悔を抱く場ではなく。