<2023.3.28 ILで公式音源挿入+一部加筆>

<2018.5.1記事>

 

(1986年 よみうりランドイーストでのデビュー10周年記念ライブ)

 

街角や電車の中などで困っている人を見ると、声をかけたり手を差し伸べたくなる。しかしなかなか行動に移せずに、もやもやした気持ちを抱えたまま過ぎ去ることもある。”助けてあげればよかったな”

 

他者に対して応援し支えたくなる優しさ、情け深さは誰もが持っている。その気持ちに従って行動を起こすにはもう一段違う気持ちが必要になる。言わずと知れた「勇気」「Courage」。

 

優しさ、情け、慈悲―そうした思いは「勇気」に集約、変換され、行動に移される。

行動にウェイトが置かれると「Brave」=「勇敢」の方が適しているのだろう。

 

わが身を顧みず河で溺れている人を助けた人に対して「彼は優しい行動をとった」とは言わないだろう。やっぱり「彼の勇敢な行動によって」と言う。

He acted bravely. He did a brave thing.

 

 

 

松山千春「勇気」

 

 

アルバム『あなたが僕を捜す時』収録(4曲目)

 

まずタイトルを見て、聴く前は楽しみだった。勇気、Courage、Braveからイメージする世界を歌っているのかなと。

 

実際の歌詞は下に書いたとおり。恋愛仕立てで言葉少な。松山千春十八番の三拍子。松山千春が時折使う、Aメロ-Aメロ-サビ-Aメロ-サビ-Aメロという曲形式(構造)。

 

前年にNEWSレコード倒産、松山千春らの夢が砕け散った。やっぱりその傷心はまだまだ癒えていなかったと思う。むしろそのど真ん中だったと。

 

再びすぐにはその夢に手は届きそうもない。ただ目の前を季節が過ぎ行く。それを何も出来ないまま見送るだけの自分への苛立ち。

 

それ以降続く「君」とか「愛の言葉」という歌詞。字面どおりに受け取れば、いつものように”愛””君”という言葉にことを預ける。

 

最後は君と僕、僕の気持ちを伝える勇気が出ないと、タイトルから想像したものと比較すれば、極めて小さな内面的な世界で終わってしまう。

 

その歌詞の後ろに「勇気を出して一歩踏み出して欲しい」というメッセージを込めたんだと「説明」しようとすればいくらでもできるだろう。

 

 

社会や人々へのメッセージを恋愛の歌詞内容に託して歌うという手法は松山千春に限らず、他のシンガーソングライターでも採る時がある。

 

長渕剛もそういう手法で作った恋愛の曲があるし、小椋佳も後年「恋愛の曲に託した方が伝えやすいという面がある」(主旨)と言っていた。続けて、「でも、年齢を重ねると、その手法ばっかりっていうのもどうかと、自分に対して思う時がある」(同)とも。

 

「勇気」とどこか似たような心の在り様を表現する言葉に「決意」がある。

 

2010年、松山千春は「決意」という曲を発表した。これはその言葉から想像できる意味合いどおりの見事な仕上がりで、私の中で、松山千春楽曲中で高く評価する曲の上位中の上位に入る。

 

松山千春ー「決意」(2010年)

 

松山千春「勇気」に戻り…

 

重複するが、想像するにやっぱり根底にはNEWSレコード倒産の傷心があるように思うので、歌い出しの歌詞をベースに全編に展開して、その内容で歌詞を作り上げてくれればよかったと思っている。

 

苛立つし焦る、もがく気持ちもある。しかしこの苦しい状況の中でも勇気を奮い起こして必ずまた歩き出してみせる、絶対に負けない。夢をかなえてみせる―そうした『勇気』をストレートに表現した「勇気」を聴いてみたかった。

 

 

今ありふれた夢

それにさえ手は届かず

 

ただ目の前を過ぎ行く季節

その苛立たしさ

 

君に告げることなく

心で留めた愛の言葉

 

またため息の中

逃げ込んで行く自分がいる

 

せめて君にこの手を

差し出すほどの

勇気があれば

 

またため息の中

逃げ込んで行く自分がいる

 

と、まぁ、そうは書いたものの、ここからは自分の中での矛盾を超えて、理屈はさて置いて、とても気に入っている曲。

 

上に書いたあの当時の松山千春の根底の気持ちを私自身が忖度して聴き受けている、大好きな曲。

 

 

*松山千春デビュー10周年記念ライブが行われたよみうりランド

オープンシアターEAST/10,000人収容可能/2013年5月に閉鎖