<2023.8.28再掲>
<2023.1.22記事>

 

 

■流行を生みだしながら、時代を超え、誰もが口ずさめる普遍性をまとう

■既存の歌謡曲とは一線を画す音楽という意味で(…)時代の転換点を象徴するシンガー・ソングライター

■ 70~2020年代の6年代連続でアルバム1位の記録を達成

■影響を公言する後続世代も多く、今なお音楽シーンで強い存在感を放つ

■一瞬の情景を切り取り、聴き手の脳に景色や心象風景を再現させる力が詞曲にあった

■たとえふられても下手に出ない自立した女性を描いた

■世の一般的な価値観に対して急進的すぎなかったことが、より広範な層からの支持を得ることにつながった

■楽曲を未来にどう残すかというテーマにも立ち向かう。自身の歌が後世に歌い継がれることを願い

■怨念ソングになるような嫉妬や後悔も、ユーミンが歌うとなぜかおしゃれに聞こえた(…)それが(…)「除湿機能」

■早すぎるわけでもなければ、時代ど真ん中でもない。「世の中よりちょっと早い」スピード感も特徴的

 

…吟味した結果、10項目にもなってしまった。

以下の朝日新聞記事(全文引用)、二人が書いた文章の中から松任谷由実の楽曲の特徴や影響、実績などを抜き出してみた。

 

いつの時代にも多くの人たちに影響を与え続けてきたことを「力がある」と定義すれば、松任谷由実は桑田佳祐と並んで、断トツでもっとも力あるシンガーソングライターなのだろう。

 

リフレインが叫んでる (2022 mix)

松任谷由実 - Forgiveness

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(扉)流行を生み、時代超えるユーミン

視覚に訴える詞/AIと探る「永遠のシンガー・ソングライター」
2022年12月18日 朝日新聞



 

 ユーミンの愛称で親しまれるシンガー・ソングライター、松任谷由実が今年デビュー50周年を迎えた。手がけた楽曲の数々は、流行を生みだしながら、時代を超え、誰もが口ずさめる普遍性をまとう。その魅力はどこにあるのか。
 「あまりにも異質で、わけわからない人が出てきた」。荒井由実として1972年に「返事はいらない」でデビューした当時、音楽評論家の平山雄一さんはそう感じたという。

 「ひこうき雲」(73年)「中央フリーウェイ」(76年)……。都会的なサウンドやメロディー、緻密(ちみつ)に計算されたコード(和音)進行など、英米ポップスに強い影響を受けた楽曲を次々と世に放つ姿は「時代の先を行っていた」(平山さん)。70年代に、既存の歌謡曲とは一線を画す音楽という意味でニューミュージックという言葉が生まれ、後のJ―POPへとつながるが、そんな時代の転換点を象徴するシンガー・ソングライターだった。

 80年代に入ると「守ってあげたい」(81年)のヒットなど、セールス的にも成功を収めたほか、87年の映画「私をスキーに連れてって」の挿入歌「恋人がサンタクロース」(80年)が映画と共にスキーブームを先導。クリスマスの定番曲として今も歌い継がれるまでに。94年に発表した「春よ、来い」は音楽教科書に採用されるなど、国民的歌手としての地位も固める。

 オリコンによると、今年50周年記念のベストアルバムが、週間アルバムランキングで1位を獲得。オリコン史上初となる70~2020年代の6年代連続でアルバム1位の記録を達成した。あいみょんや星野源など、影響を公言する後続世代も多く、今なお音楽シーンで強い存在感を放つ。
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 今月7日にインタビューした際、ユーミンは自身の音楽について「絵と音楽は同じように捉えている」と語ったが、その言葉通り、詞作には絵画のような美しさがある。

 「ソーダ水の中を貨物船がとおる/小さなアワも恋のように消えていった」(「海を見ていた午後」74年)、「つぎつぎと飛行船もゲームも止まり/粉雪が空を埋づめてゆく/終わりの暗示には美しすぎる」(「かんらん車」78年)

 一瞬の情景を切り取り、聴き手の脳に景色や心象風景を再現させる力が詞曲にあった。多摩美術大学で日本画を専攻していたこともあり、視覚芸術の絵と、聴覚・時間芸術の音楽が、深く結びついていたようだ。

 また、日本で女性の地位向上を求める機運が高まる中、詞に登場する女性も「強さ」があった。

 「ごらん、そびえるビルの群れ/悲しくなんかないわ」(「メトロポリスの片隅で」85年)

 男にふられたら泣いてすがりつく、といった演歌でよく描かれる女性像とは一線を画し、たとえふられても下手に出ない自立した女性を描いた。平山さんは「はっきりモノを言う女性像が格好良いという一つの社会的な風潮が作られる上で、ユーミンの歌は大きな影響を果たした」と語る。


 現代から見ればそれでも保守的に見える部分もある。ただ、世の一般的な価値観に対して急進的すぎなかったことが、より広範な層からの支持を得ることにつながったのだろう。
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 「ひこうき雲」では、10代にしてすでに死をテーマにしていた。「死」「生」「時間」「永遠」といったテーマは、キャリアを通じて歌われてきたが、アルバム「宇宙図書館」(2016年)、「深海の街」(20年)など、近作ではその色合いがいっそう濃くなった。

 楽曲を未来にどう残すかというテーマにも立ち向かう。自身の歌が後世に歌い継がれることを願い、「詠み人知らずになってほしい」とよく語っていた。今年発表した新曲「Call me back」では、AIで再現したデビュー当時の荒井由実の歌声と共演。ミュージックビデオでは、ユーミンがはるか未来で歌うAI荒井由実に会いに行く物語が紡がれる。

 

松任谷由実 – Call me back/松任谷由実with 荒井由実


 「私が将来いなくなっても、(AIが)きっと曲を作ったり、パフォーマンスをしたりしている。私のアルゴリズムがAIによって成長させられ、人体を離れた所で色々なことをやっていく」。50周年記念ベスト盤の特典映像で本人はこう語っている。肉体的な死を迎えた後も、「ユーミン」は生き続けるのか。遠い未来へ向けた壮大なテーマに向き合っている。
 (文・定塚遼 グラフィック・小板橋茉子)

■世の中より、ちょっと早い エッセイスト・酒井順子さん
 70~80年代は、毎年出るアルバムをご託宣かのようにありがたく拝聴していました。13年に『ユーミンの罪』という本を書いたのは、「もっと楽しい生活がしたい」「もっと素敵な恋愛がしたい」といった煩悩や欲望を全部肯定してくれるユーミンの歌は、振り返れば罪深いものだったのでは、と思ったからです。煩悩を肯定され、「それでいい」と言われているかのように調子にのって歩み続け、気がつけばまっとうな道から外れていたような。

 他の歌手が歌ったら怨念ソングになるような嫉妬や後悔も、ユーミンが歌うとなぜかおしゃれに聞こえたもので、それが私がこの本で書いている「除湿機能」です。その機能のせいで、自分の中のねっとりした感情が肯定されたような気になったのも、ユーミンの「罪」の一つかもしれません。物質文明が爛熟(らんじゅく)したバブル期は、物質とは正反対のものを歌にする姿がかっこいいと思ったものです。ゲームのように恋愛する人がたくさんいる中で、純愛もテーマにした。早すぎるわけでもなければ、時代ど真ん中でもない。「世の中よりちょっと早い」スピード感も特徴的でした。

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