7月23日の日経新聞に面白い記事が掲載されていた。

 

「推し活」が開く消費モデル-新興の学校区分である専門職大学、情報経営イノベーション専門職大学(iU)の学長・中村伊知哉氏が書いていた(以下全文引用)。

 

(中村伊知哉学長/同専門職大学ホームページから)

 

”推し活”という言葉自体はまったく好みではないし使わない、かつその自覚もないのだけれど、中身、自分がやっていることは”推し活”の一端と言わざるを得ない。

 

ブログを書くことも”推し活”のひとつ。行動としては、ほとんど”推し”に対して消費する一方で、2020年4月に「Ameba Pick」が正式に始まってからは、アフィリエイト(成果報酬型広告)機能で微々たるものだが小遣いを稼ぐこともできる。小さいながらもそこに市場的なものがある。

 

我が家に二人のBTS・ARMYがいるが、彼女たちを見ていると、BTSのファン獲得と繋ぎ止め戦略はまさに時代の先端を行っているように思った。

 

私がブログを始めた理由は、もう十数年前からブログ上に広大な松山千春ファン(音楽ファン)のアゴラを築いていた夢野旅人さんに影響を受け、微力の微力ながら私なりに松山千春や長渕剛の良さを伝え、感銘を受けた本を紹介したいからだった。

 

(松山千春/1982年)

(長渕剛/2022年)

(「待つ力」春日武彦)

 

約5年ほどブログをやってみて、断食こそ真似はしないが、その活用手法、表現方法においても夢野旅人さんの影響が大きいことをあらためて思う。よく早くからこういう手法を築き上げられたものだと感心する。

 

決して大げさではなく、松山千春ファンのアゴラにして、”推し活”のフロントランナーであり、フラッグシップと言っていい。

 

あの時掲げた 僕らの旗だけが 

今も揺れている 時の風の中で

(小田和正「the flag」) 

 

 

 

「推し活」が開く消費モデル――情報経営イノベーション専門職大学(iU)学長 中村伊知哉(今を読み解く) 

2022年7月23日 日本経済新聞 

ファン巻き込み型に展望

 2021年1月、芥川賞を受賞した宇佐見りん著『推し、燃ゆ』(河出書房新社・20年)。勉強もバイトもままならず生きづらさを抱える女子高生が年上の男性アイドルを応援することに全てのエネルギーを注ぐ。応援する対象「推し」が唯一のよりどころとなる。切ない物語が多くの共感を呼んでいる。

 この若き女性作家のフィクションに対し、横川良明著『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版・21年)は、若い男性アイドルにハマる中年オヤジの生態を描く。コミカルでリアルな自己分析だ。

 大好きな人やキャラクターの作品やグッズをいくつもいくつも買う。舞台やライブに足を運ぶ。踊る。声援を送る。なけなしのお金と時間を費やす消費であり、表現であり、生きがいとなる。推しを応援する行為「推し活」は性別、世代を超えて広がり、21年の新語・流行語大賞にもノミネートされた。

●デジタルで共有

 1980年代から認知されるようになった「オタク」には内にこもる負の風情が漂っていた。アイドルやキャラクターへの愛着を示す言葉として90年代に広がった「萌え」も内的だ。が、2000年代に台頭した推しに人生をかける人たちは行動的で外交的。堂々と胸を張っている。

 推し活はデジタルが主体。コンテンツを消費しながら、スマホやブログ、SNS(交流サイト)を使った第三者への表現が伴う行動だ。その点が昭和や平成のファンとの違いである。ぼくのわたしの独り占めにはせず、みんなに「推す」のであって、共感を呼びかけ共有を誘う。ファン集団はライバルではなく同志。好きなものを鑑賞しつつ、体を動かしてリアルに参加し、デジタルで他者とシェアする。これは今後の娯楽消費モデルであるだけでなく、厚い層のライフスタイルになるかもしれない。

●巨大な派生市場

 これをビジネス側から分析するのが中山淳雄著『推しエコノミー』(日経BP・21年)。コンテンツはテレビ、出版、レコードからデジタルのネット消費へと主戦場を移している。並行して、ライブでの体験ビジネスが広がっている。オンラインのゲームは今やイベントと物販のエンタメ空間でもある。しかもコンテンツは関連グッズなど商品化ビジネスが大きい。アニメは派生ビジネスが制作費の20倍以上あるという。

 ファンに推されるアーティストや作家は、コンテンツの内容に加え、ファンとのコミュニケーションが重要となる。コミュニティの熱量を高め、ブランドを形作ることがビジネスの基本だ。

 アメリカはテレビ・映画などコンテンツ産業がディズニー、ワーナーなど5大グループに集約された。テンセントら中国の巨大資本も世界展開を進める。日本企業は太刀打ちし難い。が、アニメ・ゲーム分野では世界に通用する豊富なキャラクターを持つ。その資産を活かし、ファンを巻き込む戦略でチャンスを描けるのではないか。

 先例が韓国だ。K―POPは欧米でも確固たる地位を築いた。「パラサイト 半地下の家族」、「梨泰院クラス」など映画やドラマも国際的なプレゼンスは日本を凌駕(りょうが)する。官民を挙げて推進した知財戦略の成果と言えよう。

 例えば世界スターとなった「BTS」のファン戦略は著名だ。SNSなどを通じて英米圏にファンを獲得しただけでなく、友達のような距離感で双方向コミュニケーションを続けたという。

 ユン・ソンミ著『BIGHIT』(原田いず訳、ハーパーコリンズ・ジャパン・22年)は、アイドル産業の現場に身を置く著者がそうしたファンをマーケティングする舞台裏を紹介する。作り手と受け手が一体となった推し・推され作戦だ。

 コロナの巣ごもりはデジタルコンテンツの消費を拡大した。いったん沈んだライブの熱気も戻ってくる。推しを核として熱いコミュニケーションが渦巻く無数のコミュニティ。デジタルとライブのエンタメ銀河系が作られていく。

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