私の恩師は教えてくださった。
「大きな人間、大人(たいじん)とは、こちらから求めて会っておきなさい」
先日、”夜回り先生”として著名な水谷修の講演を聴くことができた。また幸いにも講演前と講演後に控室でお話しする機会を得た。
(リンク) 夜回り先生 水谷修オフィシャルサイト どこまでも、生き抜いて
主催側に私の大学時代の友人がいて、以前から「水谷先生の講演会を運営することがあったら教えて欲しい、ご挨拶する場をセッティングして欲しい」と頼んでおいた。
水谷氏の著作は以前より何冊か読んで来て、そこから伝わる氏の人間的な大きさ、慈愛深さに感銘していた。出来ることなら、一度でいいから直接お会いしたいと願ってきた。
講演前の控室、関係する出版社の社長などやプレス関係者などそうそうたる方々がいらっしゃった。そこに私が入っていって明らかに”場違いなやつ”だったが、ここまで来て遠慮している場合じゃないし、何よりその友人が事前に伝えておいてくれたので、何の支障もなく前後合計10分ほどお話しができた。
私が持っている氏の著作を持参した。有り難いことにそれにサインしていただいた。
その流れで講演会に入った。
ノー原稿で80分、見事な講演だった。後半は涙無くしては聴けなかった。思っていたとおり”すごい人間だ。こういう大人(たいじん)がまだ日本にいたのか”と心から思った。
私の心に突き刺さった講演の一部を以下に掲載した。あくまで要旨で、この言葉どおりではないが、氏の主張は外してはいない。
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リストカット、ドラッグ、依存症、いじめ、DV、摂食障害、そして自殺…これらについて、私たちは日頃あまり触れることはないが、それらの日本の実態と、氏の生々しい対応を伝えたうえで―

「私は数え切れない自殺願望の人たちを救ってきました。人の心の波長は感応し合うものです。人々を幸せにするために私たちは生まれてきました。そのために必要なただ一つのこと、それは“あなた自身が幸せになること“。人々を幸せにするにはまずみなさんが幸せでないといけない。みなさんは幸せになってください。さらにそのためにも、絶対に死なないこと。生きて生きて生き抜いてください」
「私はがんにおかされているので、余命いくばくもないでしょう。でもその命を少しでも若い人のために繋いでいきたくて、こうした講演をしています。
この中で、若い世代のみなさんは知らないかもしれないけれど、今こうしてみなさんが生きているのは、みなさんの両親、家族、そしてあの大戦中、体を張って自分の命を犠牲にしてまで、守ってくれた先人の方々がいるお陰なんです。小さな子どもたちを文字どおり抱きかかえながらかばって、銃口に背中を向けて撃たれたんです。そうやって守ってくださったんです。
その方々の命をみなさんは間違いなく継いでいるんです。だから今度はみなさんが、自分の命を粗末にせずに、未来の人たちのために尽くしてください。頑張ってください」
「私の人生に後悔があるとしたらただひとつ。救えなかった命があったということ。今の私なら救える。しかし、以前は私の成長が追いついていなかった。未熟ゆえに救ってあげられなかった。それが悔やまれてならない」
お会いできて本当によかった。
冒頭の恩師の教えのとおり、これまで、これは、という方にはお会いしてきた。
たとえば近いところでは、2019年には大分県の大学キャンパスを訪ね、お会いした立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長。ライフネット生命創業者。
7年ほど前には元外交官でベストセラー作家、現代の知の巨人と言われている佐藤優氏にもお会いできた。佐藤氏に関しては、山梨県甲府市で行われた講演会の会場にうかがった。当然ながらこれらはプライベート、私費で行く。
そうした方々の存在自体から伝わって来る揺るぎない信念、それぞれの仕事を成し遂げようとする情熱、なにより、「自分」というものがない「無私」の境地、つまり人々や社会のために自分がいる、そのために何ができるか―という愛情と責任感。
まさに「大人(たいじん)は己(おのれ)なし」(荘子)である。
それらの出会いは何ものにも換え難いもので、そこで受ける触発の大きさは測り知れず、私の中に深く刻まれている。
※写真1及びカバー写真は水谷修氏オフィシャルサイトから