<2022.3.13音源挿入・写真差替>

<2019.3.6記事>

 

(2022年3月12日筆者撮影)

 

文豪・山本周五郎は代表作のひとつであり名著「さぶ」の中に綴った。

 

「お前は意識しなくても、風はいつも四季折々の香りを運び続けているものだ。お前が気づこうと気づかまいとだ」(要旨)

 

この言葉を通して、自分に心を向けてくれる人たちに気づき、感謝する生き方を説いている。

 

今朝起きたら春の香りが届けられた。口ずさむ松山千春「春は来る」。

 

すべてのものの喜びが、花が弾け咲くように開く春。
 

「春の歌」(アルバム『あなただけの季節』収録/1987年)と同じ三拍子で、希望の象徴と言える「春」の訪れを歌う。とくにメロディは松山千春の世界、そのもの。

 

 

    

風はそよ風 地平線
目指して駈けてく 軽やかに
雪解け水の 冷たさは
まぶしい陽射しに 輝いて

生命 あるもの ひたすらに
待って いたのか 春は来る


遥か山々 気高さよ
舞い飛ぶ鳥たち 青い空
海よ大地よ 草花よ
わずかな 夢から 目覚めたか

生命 あるもの ひたすらに
待って いたのか 春は来る

生命 あるもの ひたすらに
待って いたのか 春は来る

春は来る 春は来る

 

(「春は来る」2015年
アルバム『伝えなけりゃ』収録)

 

海、大地、草花を擬人化して、ほんの短い間の冬の眠りから目覚めたようだ、と歌う。

 

春になれば、長かった冬も短く感じるが、雪国に住む方から見れば決して短い冬ではないだろう。

凍てつく分厚い大地、吹きすさぶ北風、降り積もる雪、そうした冬の暗く長く厚い壁を打ち破るかのように、力強く春が芽生える。

人の人生もまた。

冬は必ず春となることを信じて、今の苦境をじっと堪え、時が来るのを待つ。

ひとたび時を得たら、蓄えたエネルギーを存分に発揮して、止まることがない。

 

闘病している方に、病状はどうであろうと心を込めて声をかける。

「春になったら必ずよくなりますよ」

 

苦境と格闘する友だちに言う。

「必ず意味がある。必ず春が来る」


「冬は必ず春となる」

 

熱帯気候の国々の人たちにはこの例えは通用しない。四季がはっきりしている日本だからこそ、こうした美しい表現と例えが生まれる。

 

ただ、人生の苦境、辛酸を乗り越え、さらに自分自身の成長を目指すという本質は気候とは関係ない。

 

苦境、辛酸を自分なりに捉えて意味づける。その「意味を換える」と言ってもいい。苦境の意味を換え、その苦境に真向から挑戦する。

 

苦境にひるむ弱い心に支配されないから、絶対に他人や環境のせいになどしない。

 

ぜんぶ自分事、自分の人生の一部として昇華している人が力強く発する言葉であり、人々を励ます分かり易く含蓄深い言葉である。

「春は来る」―自然界にも人の人生にも共通するこの原理を、わかり易い言葉で力強く伝えた、松山千春らしい名曲である。

 


(2022年3月12日筆者撮影)