<2022.3.11一部編集>
今日、東日本大震災から11年
松山千春「決意」
(2017年8月石巻訪問)
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<2021.3.11記事>
※2018年3月15日初稿に加筆
今日、東日本大震災から10年。
死者・行方不明者約22,000人。未曾有の大震災。亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。
世の中が平和でありますよう、人々が安穏な生活を送れますよう毎日祈っています。
NHKスペシャル「津波避難 何が生死を分けたのか」―
5日前の3月6日に放映された同番組の中で、東日本大震災が発生した時の人々の避難行動を可視化する研究成果が発表されていた。犠牲者が少なかった地域と多かった地域の違いのひとつの要素―それは一人の「率先避難者」がいたかどうか。
”逃げろ!”とまず自らが避難行動に移り、周囲にいる人々にも避難を促す。それが身近な人だけではなく関係性の薄い人々にまで連鎖し、集団での避難に繋がったという。この避難の連鎖を滝の流れになぞらえ「避難のカスケード」と名付けた(富士通研究所 牧野嶋 文泰氏)。
避難行動を研究する片田敏孝氏(東京大学大学院特任教授)は「避難のカスケード」は今後の地域防災を考えるカギになると言う。「率先避難者」が重要であるならば、その時偶発的に誰かがそうなることを期待するよりは、初めから「率先避難」の役割を担う人を地域に決めておくことが重要な手段だと言う。現実に「わが社が率先避難者となる」と決めて訓練を重ねる地域の会社も紹介されていた。
「釜石の奇跡」―
千年に一度の超巨大津波に見舞われた東北地方。そこに受け継がれている「津波てんでんこ」の教えの正しさを証明する言葉である。
”てんでんこ"とは”各自””各々”の意味。海岸で大きな揺れを感じた時は、津波が来るから肉親にもかまわず、各自てんでんばらばらに一刻も早く高台に逃げて、自分の命を守れ-という意味である。
この教訓に基づき、群馬大学(当時)の片田敏孝教授※(災害社会工学)の指導で津波から避難するための教育を8年間重ねてきた岩手県釜石市内の小中学校では、あの巨大地震の直後、全児童・生徒計約3千人が即座に避難し、生存率は99・8%。これが「釜石の奇跡」と呼ばれた。
釜石東中学校の生徒が「率先避難者」となった。その避難の過程で、中学生たちは最初に避難した福祉施設が危険とみるや、自分たちの判断でさらに高台を目指して避難した。
途中合流した鵜住居小学校児童に声をかけその手を引き、走った。さらに途中避難するお母様と小さなお子さんたちに出会った時には、そのベビーカーを押しながら走った。
松山千春「決意」
2010年5月リリース。アルバム『ずうっと一緒』収録。
「決意」
僕等生きている 世の中を嘆いても
時は止まらない 一瞬のまばたきさ
ひとつふたつと 愛を集めて
やがて大きな 勇気に変えて行く
僕等そんなにも チッポケな奴等じゃない
誰が悪いのか 正義とは何なのか
いつか見きわめる 泣き寝入りしちゃダメさ
ひとつふたつと 夢を集めて
やがて大きな 希望に変えて行く
僕等そんなにも 愚か者じゃないからね
ああ何故に ああ人は
僕等生きている 世の中を取り戻す
時をのがさずに 失敗を恐れずに
ひとつふたつと 心集めて
やがて確かな 目的を目指して
僕等そんなにも 弱虫なんかじゃないさ
ああ何故に ああ人は
歌詞が伝えるマインドは松山千春のそれだろう。
長い間、鳴りを潜めている感があるこうした前向きな、人々に勇気と力を与えずにはおかない歌詞こそが本来の松山千春の世界だと信じている。
瀬尾一三氏の見事なアレンジは、この曲に一層の重厚感と力強さを与える。
歌が大きな塊になってぶつかってくる。ずっと聴いていたくなる。
歌詞とメロディ、瀬尾氏のアレンジのどれかが欠けたらこういう作品には仕上がっていないだろう。
楽曲の良し悪しがまずあってアレンジが生きるのだと思うが、いいアレンジは曲を何倍も生かす。アレンジは曲の後ろに控えつつ、しかし曲を支配し包み込む。
( 同上 )
東日本大震災を思うにつけ、釜石の奇跡のエピソードを思い出すにつけ、いつもこの歌が聴こえてくる。
この歌を聴くたびに、津波が押し寄せてくるあの道を、中学生たちが、小学生や小さな子どもたちを連れて走るシーンが浮かぶ。彼ら彼女らを「英雄」と呼ばずして、「英雄」はどこにいるのか。
誰からも注目されない、どこからもスポットは当たらない。でも自分の周りの大切な命を救うために、中学生、小学生たちが黙々と訓練を重ねてきた。立派である。
彼ら彼女らに涙し感謝しながら合掌する思いで、3.11を迎えた。
(2017年8月11日 宮城県石巻市 日和山公園から/筆者撮影)
(トップ写真:2017年8月11日 宮城県石巻市 「がんばろう、石巻」大看板/筆者撮影)
※片田敏孝/現・東京大学大学院情報学環 特任教授、群馬大学 名誉教授
松山千春「決意」