「歪んだ波紋」
塩田武士/講談社/2018年8月7日刊
騙されるな。真実を疑え。
ベストセラー『罪の声』(2016年)の著者であり、元・新聞記者の社会派作家・塩田武士が「誤報」そして「情報捏造」をテーマに、現役の新聞記者や新聞社を退社した元記者らを主人公にした5編の連作報道小説。
SNSを介して誰もが情報発信者となった現代。その無数の有象無象の情報が、新聞やテレビ、雑誌などいわゆるレガシー・メディアを駆逐するかの様相を呈している。
それはやがて「情報に対する考え方が根本的に変わってきているのかもしれません。正しく、人に役立つニュースが前提やと思ってきたけど、正しいより面白い、人の役より自分の役に立つ、そんな情報が飛び交う世の中になっても不思議じゃない」(273㌻)時代を作り出すのかもしれない。もしかするともうそういう時代に入っているのではないか。
最終の第5章「歪んだ波紋」のラストで、記者を引退している先輩が、ウェッブメディア「ファクト・ジャーナル」の編集長に言った(274㌻)。
「記者は現場やで」
編集長は、自分で現場に足を運び、自分の目で見て、自分で考えることの大切さを改めて思った。それが、レガシー・メディアが生き残るための肝心であるのだとも。
自分がうそを書かない、流さないことはもとより、安易にシェアした情報が誤っていて、結果的にうそを拡散する行為に加担してしまうこともなくはない。
私たちは身近に溢れる真偽入り混じった無数のネット情報とどう向き合うのか。
ネット時代の今、一読の価値大いにある一冊である。
(目次)
「黒い依頼」ー誤報と虚報
「共犯者」ー誤報と時効
「ゼロの影」ー誤報と沈黙
「Dの微笑」ー誤報と娯楽
「歪んだ波紋」ー誤報と権力
以下、講談社BOOK倶楽部の本書内容紹介
ニュースという名の「悪意」――。
累計75万部突破『罪の声』の著者、真骨頂の報道小説!
地方紙記者の沢村は、調査報道チームのデスクから一枚の写真を見せられる。
同僚記者が、ひき逃げ事件の犯行車両とスクープしたものだ。
「この車、遺族宅にあるらしい」。
沢村は取材へ急行する。
犯人は家族なのか――(「黒い依頼」)。
「誤報」を通じて現代社会の虚と実に迫る、著者会心の傑作。
NHKドラマ原作
吉川英治文学新人賞受賞作
解説 武田砂鉄(ライター)