(映画)
『ハドソン川の奇跡』(原題 Sully)
2016年制作/アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
主演:トム・ハンクス
2009年に起こり、奇跡的な生還劇として知られるUSエアウェイズ1549便のハドソン川への不時着水事故、通称“ハドソン川の奇跡”と、その後の機長・副操縦士とNTSB(アメリカ国家運輸安全委員会)との事実解明に向けた「闘争」の知られざる真実を映画化したもの。
原題の“Sully”(サリー)とは、USエアウェイズ1549便の機長チェスリー・サレンバーガーのニックネーム。
2009年1月15日、ラガーディア空港発シャーロット空港行きのUSエアウェイズ1549便は離陸直後、巡航高度に向かう途中に鳥の群れに接触し、鳥がエンジンに吸い込まれ、両エンジンが機能停止し推力を失ってしまう。
ちなみにここでいう鳥はカナダ雁と呼ばれ、大きいものは両翼を広げれば1.5㍍、体重は4㎏にもなるという。それが大群で飛行機の両エンジンに吸い込まれたのである。
かつ上に書いたとおり、機体はまだ巡航高度に達しておらずエンジンも全開までにはなっていない。バードストライクを想定してはいるものの、回転速度が最高値ではなく、エンジン内の異物を外に吐き出す遠心力はフルではなかった。
1549便の機長チェスリー・サレンバーガーと副操縦士のジェフ・スカイルズは、推力を失った機体を出発地ラガーディア空港に引き返えそうと一旦は試みるが、高度が低すぎたため不可能、かつ他の空港への着陸もまた不可能と判断。機長は乗客の命を守るために、眼下に流れるハドソン川に機体を着水させることを決断した。
(写真:イメージ)
機長の巧みな操縦により着水の衝撃で機体が大破することなく不時着水できた。さらに客室乗務員の迅速な避難誘導や、ハドソン川での総力を結集した救助が早かったことなどもあり、大型旅客機の不時着水という大事故ながら、乗員・乗客155人は全員無事、1人の死者も出さなかった。
あの時このニュースは映像とともに世界中を駆け巡り「ハドソン川の奇跡」と呼ばれたことはまだ記憶に新しい。
機長と副操縦士は奇跡を作り出したヒーローとなる。しかし後日、NTSBの調査によりシミュレートを行った結果、1549便はラガーディアにも他の空港にも着陸が可能だったという報告を突き付けられた。機長と副操縦士はヒーローから一転、疑惑の人物となってしまう。ハドソン川への不時着水は乗客の命を危険に晒す行為だったのではないか、と。
議論の場は公聴会に移った。
機長は言う。
「航空史に例をみない低高度で両エンジンの推力を喪失している。それを想定し訓練を受けたパイロットはいますか?いません。しかも管制塔の指示どおり他の空港に着陸を試みることはアクロバット飛行にもほどがある。事故調査委員会のシミュレーションは、事故掌握直後、出発した空港に引き返すという判断が前提で行われている。置かれた状況を分析し、判断したという痕跡がない。つまりシミュレーションからは人的要因が排除されている。人間が操縦している。あの状況でパイロットたちが判断するまでには時間が必要だった。人為的ミスを調査するのなら、人らしい判断を」(要旨)
これにより、調査委員会は事故掌握から次の飛行行動を判断するまでに35秒あったとし、それを組み込んで再度シミュレーションした。その結果、何度試みても推力喪失から35秒経った時点では、既に出発した空港にも別の空港にも着陸できないという結果が導き出された。
つまりハドソン川への不時着水を判断した機長と副操縦士は正しかったことが公式に認められたのである。加えて、機体を大破させることなくハドソン川への不時着を行った機長の判断の的確さと飛行技術の高さが再び人々に知られるところとなった。
機長は言う。
「この生還は、副操縦士、客室乗務員、乗員の皆様、管制塔の人たち、救助に駆けつけた多くの人たち、フェリーや警察の人たち…それらすべての人たちが力を合わせ、生き残った」(要旨)
機長は副操縦士を称えた。
「一緒に頑張った。チームだった。いい仕事だった」
映画終了までの最後の約10分のシーンは鳥肌が立つほど感動した。
観てよかった。重複するが、一見の価値、大いにある作品だった。