東京都内で新型コロナウィルスの感染が確認された人数は、17日40人、18日29人、19日36人、20日41人と、4日連続で50人を下回っている。当然全国の総数も減ってきている。なぜこれほど急減したのか。専門家委員会からも説得力のある理由は発表されていない。
東邦大学の舘田一博教授(微生物・感染症学)は、「日本では64歳未満の人口を対象としたワクチン接種が、迅速かつ集中的に進められた。これによって一時的に、集団免疫に似た状態がつくられている」との見方を示した(「Newsweek」10/19)。
また、厚生労働省新型コロナウイルスアドバイザリーボード資料によると、ワクチン接種履歴によって新規陽性者数の発生率が大きく異なることが分かる。例えば、9/27~10/3の間の人口10万人当たりの感染者数を見ると、未接種者は17.7人、2回接種済は1.6人である。ワクチンで10分の1以下に抑え込んでいることになる(「JBpress」10/15)。
(2021年10月20日 12:10筆者撮影)
ワクチン接種がその理由のひとつであることは確かだと思うが、何はともあれ、急減の原因をしっかり把握することは、一部では来年早々にも来ると言われている第6波への対策にダイレクトにつながり、大きな価値があるだろう。
10月18日の日経新聞コラム「春秋」は、今の私たちの(少なくとも私の)気持ちの部分を代弁するような内容だった。
まさにコロナウィルスが秋風に乗ってどこかに飛んで行ったと思えるような感染者数の急減
である。ウィルスの側から見た説―ワクチンなどに対抗して変異を急ぎ過ぎるとウィルスは自滅する―も興味深い。
どういう急減の理由があるにしても、コロナウィルスが無くなったわけではないので、手放しでは喜べないし、油断は大敵である。変わらず感染防止対策を進めていくしかない。
人がウイルスの存在を知らなかったころ(春秋)
2021年10月18日 日本経済新聞
人がウイルスの存在を知らなかったころ、流行(はや)り病は突然やってきて、どこかへ消え去るものだった。大正期に流行したスペイン風邪について、菊池寛はこんな風に書き留めた。「もう、流行性感冒は、都会の地を離れて、山間僻地(へきち)へ行った」(「マスク」文春文庫)。
▼あたかもちりが吹き払われるように、ウイルスが風に乗って移動するわけはない。とはいえ澄んだ秋晴れの空を見上げていると、夏場に猛威を振るっていた「第5波」が、入れ替わる大気と一緒に運び去られた気がしてしまう。感染の拡大に警鐘を鳴らしていた科学者も、思いのほかの激減ぶりに理由を説明できずにいる。
▼この現象をウイルス側から眺めれば、答えが導けるとの説がある。ワクチンなどに対抗して変異を急ぎすぎると、勢いで自滅するというのだ。もとはノーベル賞学者が半世紀前に唱えた理論。破滅を意味する「カタストロフ」の異名をとる。荒唐無稽にも聞こえるが、いま不思議な説得力を帯びて、巷間(ちまた)に流布しつつある。
▼コロナと共に過ごす年月、私たちは未来の予測がいかに難しいかを思い知った。科学と技術がどれだけ進歩しようとも、仏詩人ポール・ヴァレリーが残した名言のごとく「我々は後ずさりしながら未来に入っていく」。見えているのは今と過去だけ。感染激減でも手放しで喜べない。慎重に足場を探りながらの歩みが続く