9月9日の日本経済新聞に「経営改革を腹落ちさせる組織開発」とのタイトルで、京都大学経営管理大学院教授の若林直樹氏による興味深い記事が掲載されていた(以下全文)。

 

「社員の理解を無視して教科書的な変革論のやり方を押しつける」組織開発はすでに限界にきている。「社員同士の日常的なコミュニケーションや交流が実際の会社の活動などに共通の見方や解釈を与え、主体的な意味づけをする」という「対話的組織開発」が重要であるとする。

 

この「対話的組織開発」が生まれる前提となっている時代の風潮のひとつに、社員の多様化があるように思う。育った時代の風や考え方がまったく違う、とくに若い世代に対して、一昔前まで当たり前だったことを押し付けてもそれを理解する感覚的土壌はなく、意味がない。そもそも、その当たり前だったことが本当に当たり前で正しかったのかは分からない。

 

そこで社員同士が対話し、意見を交換し、議論することで、社員が企業改革を「自分事化」し、自分たちなりに意味づけ、実際のやり方を自発的に作り上げていく(「腹落ちする」やり方を重視する)行動に結実させる、それが「対話的組織開発」だと言う。

 

経営改革を腹落ちさせる組織開発(十字路)

2021/09/09 日本経済新聞 夕刊 
 

 企業が組織の課題に頭を悩まし「組織開発」に再び注目するようになった。組織開発とは競争力や福祉の面から会社組織を計画的に変革するために介入することを指す。会社組織の持つ「意識」「考え方」「感じ方」「行動パターン」を変えて革新性や創造性を活性化したり、組織の病理を直そうとしたりする。
 かつての組織改革は企業をシステムと見立て全体が環境に最適な状況に変革するのが主だった。社員を組織に従属する者とみる一方的なものも一部にあった。南山大学教授の中村和彦氏によれば、それゆえ実践者の質の問題もあり組織開発への社員たちの疑念が広まり1990年代以降しばらく冬の時代を迎えた。
 だが近年、組織開発に対する見方は変わってきた。日常の組織活動と、その変革における社員同士の対話と主体性を重視する。米アメリカン大学研究員のロバート・マーシャク氏によれば、その典型は従来とは異なる「対話的組織開発」の考え方にある。
 米デンバー大学客員教員のドナルド・アンダーソン氏は、この新発想が組織開発に社員本位の視点をよみがえらせたと指摘する。対話的組織開発は、社員同士の日常的なコミュニケーションや交流が実際の会社の活動などに共通の見方や解釈を与え、主体的な意味づけをするとみる。
 かつての上からの組織開発は、社員の理解を無視して教科書的な変革論のやり方を押しつける面もあった。対話的組織開発は、社員が企業改革を「自分事化」することを重視する。社員たちが改革について話し合うことで意識を持ち、自分たちなりに意味付けし、実際のやり方を自発的に構築する動きである。
 この考え方は、社員たちが経営改革に「腹落ち」するやり方を重視する。特に会社での働き方や生産性の改革には必要になる。
(京都大学経営管理大学院教授 若林 直樹)