読売新聞連載 [時代の証言者]現代の吟遊詩人 さだまさし

 

第15回目ではグレープ解散後の「雨やどり」のヒットとその裏話を伝えていた。昨日の第16回目は120万枚以上を売り上げ、さだまさし最大のヒット曲となった「関白宣言」について語っている(以下全文引用)。

 

曲のヒットに伴って、歌われている歌詞内容について「男尊女卑」「女性蔑視」論と、男性擁護論との論争が巻き起こり、そのことで読売新聞が特集記事を組んだという。当時の時代状況を垣間見られる面白い記事だった。

 

(「関白宣言」さだまさしOfficialYouTubechannel)

 

 

[時代の証言者]現代の吟遊詩人 さだまさし

  (16)男へのエール 大ヒット    
 

 「雨やどり」でドタバタのプロポーズ劇を演じた2人はその後どうなったのか? 後日談的な曲を書いてみたら面白いのではと、漠然と考えていました。そんな1979年のある日のこと。京都の行きつけのスナックのおかみさんから「最近の女がひどいのは、男がダメだからだ。男よ、しっかりしろって曲を書いてください」とけしかけられ、思わず「書きますわ」と言ってしまいました。
 こうして生まれたのが「関白宣言」です。男が婚約者に「俺より先に寝てはいけない」「めしは上手(うま)く作れ」「いつもきれいでいろ」「シットはするな」など求めることを列挙するという仕立てです。最初は威勢がいいのですが、最後は「愛する女は生涯お前ただ一人」などほれた弱みをさらけ出す。落語の演目「替り目」を意識したサゲですね。
 出来上がったらすぐ、京都のおかみさんに聞かせました。「この程度で関白なんて、あなたの人生もたいしたことありませんな」と言われましたが。
 同年7月にこの曲のシングル盤を発売。たちまち話題になり、すさまじい勢いで売れていきました。最終的に120万枚以上を売り上げ、僕の最大のヒット曲になりました。
 さて、この曲は「女性蔑視(べっし)」「男尊女卑」という批判を浴びることになりました。それに対する擁護派もいて、けっこうな論争になりました。言うまでもなく、男尊女卑の歌を作ろうとしたわけじゃない。女性を愛してやまない男性が虚勢をはって、理想を並べ立てる。ちょっと情けない男が描かれていると思いませんか?
 《読売新聞の79年8月19日朝刊投稿欄「放送塔」で「女性を侮辱した歌詞。女性は召し使いか奴隷のよう」という意見を掲載したところ、賛否の投稿が殺到した。24日同欄では、「男性のテレと感謝がにじむユーモアあふれるラブソング」など女性蔑視とは思わないという意見が291通、「女性は無知でかわいければいいの極めつき」など女性蔑視だという意見が3通だったと伝えている。これを受けて25日朝刊社会面ではこの曲への反響を特集。評論家の会田雄次氏は「本当の意味での男の優しさは毅然(きぜん)とした態度を取ること。この歌のヒットは男らしさへの憧れ」と分析した》
 この年の日本レコード大賞では、「関白宣言」が金賞を、アルバム「夢供養」もベスト・アルバム賞を獲得。そして、NHK紅白歌合戦に初出場しました。
 実は僕の中で、この人気も一過性だろうなという冷めた感覚がありました。この曲の論争の中で、自分が際物視されているような気がしたからです。しかし、この後も「道化師のソネット」「防人の詩」「驛舎」「しあわせについて」など順調にヒットが生まれました。(シンガー・ソングライター)