11月8日放送のNHKスペシャル

 

 新型コロナ全論文解読 

 AIで迫る いま知りたいこと 


 これまでに世界中で発表された新型コロナウィルスに関する20万本を超える論文をAIが解読し、関連する論文やキーワードをリンクさせ構築した知のネットワークを駆使して、今、人々が知りたいことに答える企画。現時点では決定的なことは伝えられないため、あくまで現状の可能性と方向性を提示する。司会を爆笑問題の二人が務めていた。

番組が立てた4つの問い

1 この冬日本の感染者が急増する?
2 収束はいつ?決定打は?
3 風邪とは大違い! 新型コロナ“真の脅威”
4 見えた“究極”のウィルス対策


 これに対し、スタジオの3人の専門家、そしてオンラインで結んだ海外の専門家が解説するという構成。

1 この冬日本の感染者が急増する?
 感染拡大に関するキーワードの2位は湿度、1位は気温。多くの論文が、気温と湿度がウィルスの生存時間に影響を与えると指摘する。夏、気温35度、湿度60%の中でウィルスの生存時間は約2時間。秋、気温24度、湿度20%では15時間。低温・低湿度で感染拡大のリスクは高まると言う。こうした点から、ある専門家はこの冬、日本でも感染者が急増する可能性があると予測する。
 日本を初めとするアジア各国の死亡者数は欧米に比べると圧倒的に少ない。その理由として「交差免疫」を上げる。私たちがあるウィルスに感染すると体内の免疫細胞は抗体を作り出す。その抗体の能力は一定期間保たれるため、その後のウィルス感染にも威力を発揮し、重症化を防ぐ。
 コロナウィルスの仲間はこれまで東アジアを中心に流行を繰り返してきた。そのため、日本などアジア各国の人々が新型コロナウィルスに効く交差免疫をすでに獲得していることが重症化を防ぐ一因ではないか、との説を紹介していた。
 さらに、重症化しにくい要因として「マスク着用」を上げた論文を紹介する。マスクを着用していると吸い込むウィルスの量は減り、症状は軽くすむと言われている。この微量感染により体内に抗体が少しだけ作られる。再び微量感染した場合、免疫細胞が適応し始め、作られる抗体が増えていく。その過程を繰り返すことで免疫力を獲得できたと考える。
 他にも要因があるとしつつも、マスクの効能は出演していた専門家がそろって指摘していた。

2 収束はいつ?決定打は?
 世界トップの研究者たちの見解では、2021年の夏頃という予測が一番多く、2021年内、2021年末と続く。収束しない(季節性ウィルスとして残る)、という意見もあった。

 2021年夏頃収束すると予測する根拠は、ワクチンが間もなく市場に出回る可能性を挙げる。2021年末と予測する根拠は、ワクチンの臨床実験の結果によるという。多くの専門家がワクチンが出来ないと収束は不可能とする。ただし、ワクチンの副反応、安全性をよく見極める必要があるとし、その過程が収束時期に影響する。
 一方、ウィルスは変異するため、それに適したワクチン開発は難しく、もしできたとしてもウィルスに強い効果を発揮するものはすぐにはできないだろうと主張する専門家もいた。
 インフルエンザワクチン(予防接種)が新型コロナに一定程度効くというデータを紹介しつつ、専門家によって意見が割れていることを伝える。一方で特効薬の開発も進んでいる。

3 風邪とは大違い! 新型コロナ“真の脅威”
 感染者の体験として、回復した後も抜け毛や倦怠感、下痢、不整脈、めまい、頭痛など全身に影響する症状が長く続くことを紹介し、「普通の風邪と同じ」という風潮に警鐘を鳴らしていた。

4 見えた“究極”のウィルス対策
 「感染予防」の観点から論文を抽出し、最近の急上昇ワードを見てみると第5位に「加湿」。喉の奥にある線毛。これが体に侵入したウィルスなどを外に押し出す働きをするが、湿度が40~60%で一番動きがいいという。さらにくしゃみなどの飛沫は加湿によって落下する量が増加し。拡散する量は減少する。  
 2位は「紫外線」。とくに波長が222㎚(ナノメートル)の紫外線が人に安全でかつウィルスを無害化する効果があると言う論文を紹介していた(ただしこの紫外線発生機器は現在市販されていない)。

 これまで蓄積してきた知識と、人々が認識し現在実行している感染防止策以上のものは見当たらなかった。スタジオにいた沖縄県立中部病院の高山氏の「新しい技術を使えばさらにウィルスに強い社会を作っていけると思う。しかしそれに頼り過ぎて、やるべき対応をやらないことは避けた方がいい」(要旨)という発言、さらに大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂氏の「三密回避、手指消毒、換気など基本的な感染防止対策をきちっとやったうえで、新しい技術を活用することが大事」(要旨)との発言は、これまでの対策の継続を推奨していた。
 
 番組の最後に同じく上の宮坂氏の
 「三密を避ける、マスクをする、手を洗う、送風・換気をする…基本的な防御策をしっかり守ればこのウィルスにはそう簡単には感染しません。そこに新しいさまざまな技術、知識が加わっていく。私たちはそう心配しなくてもよい時期に入りつつある。必ず私たちはこのウィルスに勝つことができるだろうと思っています」
 との発言は説得力があった。これを聞いて「じゃぁ、もう大丈夫だな」とはならない。やっぱり基本的な感染防止対策を淡々としっかりやり続けることの重要性を再認識した。

 

 新型コロナウィルスと自分との距離感を測るのにはよい番組だった。この稿ではあくまでポイントのみを取り上げている。同番組は、11月11日(水) NHK総合 午前0時30分から再放送されるので、全編詳細はそちらで。