こんなリーダーになりたい
私が学んだ24人の生き方
佐々木常夫/文春新書/2013年9月20日
過去の偉人の人生や成し遂げたことを紹介しながら、生きる上での教訓的なことを伝える、よくある類の一冊と言えばそうだが、著者自身の人生に向き合う真摯な姿勢故か、とても説得力を持ってすっきりとその言葉が入ってくる。”読んでよかった”と素直に思える一冊。
ある偉人の人生を俯瞰し、その人のどの部分の出来事や考え方を切り取り、教訓を拾い出すかは、ひとえにそれを書く人の実体験を経て作り上げた境涯、器によるところが大きい。この本で著者が定義づけるリーダーとは「勇気と希望を与えてくれる人」。そして自分のことより人々のこと、目的のために小異を超えること、自社の利益を超えて社会のために…つまり「無私」であること。それらを包含して「高い倫理観」を持つことだと言う。
著者は、長く精神疾患と、肝臓病を患った妻、さらには自閉症の長男を抱えながら、それらを自分の人生の一部と受け止め、看病と家事、育児にあたってきた。苦労と言えば、多くの苦労の中で生きてきた。その一方で多くの経営破綻の企業を再生させるなど、多くの仕事を成し遂げている。そういう著者だからこそ感じ取れる偉人の力と精神がある。この本はそれらを紡ぎ出しているからこそ、読む人に勇気を与えるのだろう。
佐々木氏は自身のオフィシャルWEBサイトで、この本の内容をほぼそのまま掲載しているので一読いただけるとよいかもしれない。本と同じ24人を取り上げ、巻末に収録されている著者の「私のリーダー論」も掲載している。
文藝春秋社編集者のこの本のレビューは以下のとおり。
良き指導者のことをメンターと呼びますが、東レ経営研究所特別顧問の佐々木常夫さんはまさにすべての働く人にとってメンター的存在です。自閉症の長男、肝臓病の妻を看病し家事もこなししながら、破たん会社の再生、数々の事業改革を成し遂げてきました。その“理想の上司”ご本人が常にお手本としてきた二十四人のリーダーたち。「経営の鬼神」ハロルド・ジェニーンから孔子まで、ビジネスで、人生においても役立つ知恵が満載です(M・R)
この本の中で特に私の心に響いたのは以下。
「夜と霧」を表した、ヴィクトール・E・フランクルの言葉。自らも収容された、ユダヤ人強制収容所の中で、同じく収容され希望を失いつつあった同胞たちに語った。
「我々の置かれている状況は、お先真っ暗で生き延びる蓋然性は極めて低い。しかし私個人としては、希望を捨て投げやりになる気は全くない。なぜなら、未来のことは誰にもわかないし、次の瞬間に自分に何が起こるかもわからないからだ。(中略)ありがたいことに未来は未定だ。人間が生きることには常にどんな状況にも意味がある。今、このとき、私たちは、誰かのまなざしに見下ろされている。誰かとは友かも、妻かも、神かもしれない。その見下ろしている誰かを失望させないでほしい。私たちは一人残らず、意味もなく苦しみ死ぬことを欲しない」(40~41㌻)
著者はこの「夜と霧」を読んで、「自分の人生観を根本的に修正した」という。そのひとつは、「私が障害を持つ家族や仕事で苦労したことなどは、フランクルの経験に比べれば、取るに足らないということ」。もうひとつは「人は自分に与えられた人生で全力でその使命を果たすことが生きていく意味なのだ」ということ。著者の言葉で言い換えれば、「運命は引き受けるもの」ということに気付かせてくれたという。(39㌻)
もうひとつ。新渡戸稲造の生涯を紹介した章の中での著者の言葉。
「組織のリーダーと言うのは、外部で成功した人であり、その物差しは外部にあるが、実際に尊敬される人、リーダーになるべき人の物差しは内部にある。だから自分自身の内面を高めていくことが大切なのだ」(165㌻)