<2024.08.16>公式音源挿入
<2019.07.06>起稿

 

 

本日(2019年7月6日)放映の日本テレビ系の『THE MUSIC DAY~時代~』

やっとさだまさし「償い」の時間が来た。

 

さだまさしのセルフカバーアルバム『新自分風土記』に収録されたアレンジ。

珍しくTAYLORのギターを使っていた。

 

 

1982年12月、さだまさしのオリジナルアルバム『夢の轍』がリリースされた。私は中学3年。それが友人宅にあったので借りた。

 

 

「夢の轍」―中学生ながら、いい言葉だと思った。

そのアルバムのB面4曲目「償い」に背筋がぞくぞくするほどの感動を覚えたのもまたはっきり覚えている。歌の力、言葉の力の”凄さ”を実感した。

 

ギターでも何度もあの独特のスリーフィンガーを練習した。

番組の中で紹介されていたが、「償い」はその後2001年に起こった世田谷三軒茶屋駅ホーム傷害致死事件の判決公判(2002年2月/東京地裁)の場で、裁判長が言及したことで大きな話題になった。

山室惠裁判長は被告人2人の少年(当時)に対し「唐突だが、君たちはさだまさしの『償い』という唄を聴いたことがあるだろうか」と切り出し、「この歌のせめて歌詞だけでも読めば、なぜ君たちの反省の弁が人の心を打たないか分かるだろう」と諭した。

 このことに対してさだまさしは

 

「この歌の若者は命がけで謝罪したんです。人の命を奪ったことに対する誠実な謝罪こそ大切。裁判長はそのことを2人に訴えたかったのでは」とコメントしたと言う。

その年(2002年)の11月23日、「さだまさしデビュー30周年記念」として「ミュージックフェア21 」(フジテレビ系)に出演したさだまさしは、テレビで初めて「償い」を歌った。

さだまさしの感情を込めた迫力ある歌いっぷり、ほぼギターのストロークだけで、歌詞の世界と歌の力をあますところなく伝えた。

さびのストロークもさだまさしの感情が乗り移ったように聞こえた。

実話に基づいているということも歌詞に力を与えていることは事実だが、基本はやはりさだまさしの豊富な語彙力から、命を削るように紡ぎ出した珠玉の歌詞(言葉)の力だろう。
 

あくまで歌で勝負、歌を聞けばおのずと言葉の力、歌の力が伝わる。「償い」はまさにそういう力ある歌だと思う。

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東野圭吾の小説「手紙」にもこの「償い」に相通じる場面が綴られている。

 

 

 

母を殺されたその人は、犯人(加害者)の弟と最後の対面の場を持った。

 

その人は弟に言った。

 

「彼(兄)が自分の過ちを悔いているのはよくわかる。だけどいくら謝られても、反省の弁を聞かされても、母親を殺された無念さは消えない」

 

「償い」では、遺された妻が加害者に手紙を送った。

 

「あなたの優しい気持ちはとてもよくわかりました。だからどうぞ送金はやめて下さい。あなたの文字を見る度に、主人を思い出して辛いのです。あなたの気持ちはわかるけど」

 

その人も妻も、犯人(加害者)の気持ちは受け止めている。でも、家族を亡くした事実と悲しみははどんなに謝罪されても、仕送りされても決して消えることはない。


だからと言って謝罪しなくてもよい、ということにはならない。

 

家族は亡くなってしまった。どんなことをしてももう二度と会えない。刑務所にいるとは言っても、犯人(加害者)は生きている。会おうと思えば会える。絶対に埋められない深く大きな溝がここにある。

 

犯人(加害者)の「償い」の思いと、被害者家族の気持ちは折り合えるのか。本当の「償い」ってあるのか。「償い」の意味を問いかけ続けている。

 


月末になるとゆうちゃんは

薄い給料袋の封も切らずに
必ず横町の角にある郵便局へ

とび込んでゆくのだった
仲間はそんな彼をみてみんな

貯金が趣味のしみったれた奴だと
飲んだ勢いで嘲笑っても

ゆうちゃんはニコニコ笑うばかり

僕だけが知っているのだ

彼はここへ来る前にたった一度だけ
たった一度だけ哀しい誤ちを

犯してしまったのだ
配達帰りの雨の夜横断歩道の人影に
ブレーキが間にあわなかった

彼はその日とても疲れてた

人殺しあんたを許さないと彼をののしった
被害者の奥さんの涙の足元で
彼はひたすら大声で泣き乍ら
ただ頭を床にこすりつけるだけだった

それから彼は人が変わった何もかも
忘れて働いて働いて
償いきれるはずもないがせめてもと
毎月あの人に仕送りをしている

今日ゆうちゃんが僕の部屋へ

泣き乍ら走り込んで来た
しゃくりあげ乍ら彼は

一通の手紙を抱きしめていた
それは事件から数えて

ようやく七年目に初めて
あの奥さんから初めて彼宛に届いた便り

「ありがとう あなたの優しい気持ちは

とてもよくわかりました
だからどうぞ送金はやめて下さい

あなたの文字を見る度に
主人を思い出して辛いのです

あなたの気持ちはわかるけど 

それよりどうかもう

あなたご自身の人生を

もとに戻してあげて欲しい」

手紙の中身はどうでもよかったそれよりも
償いきれるはずもないあの人から
返事が来たのがありがたくてありがたくて
ありがたくて ありがたくて ありがたくて

神様って思わず僕は叫んでいた
彼は許されたと思っていいのですか
来月も郵便局へ通うはずの
やさしい人を許してくれてありがとう

人間って哀しいねだってみんなやさしい
それが傷つけあってかばいあって
何だかもらい泣きの涙がとまらなくて
とまらなくて とまらなくて とまらなくて