「雨の色は何色?」
「見る者の思いを色にして映し出す水晶玉か。人の心の数だけ雨の色もあっていい」(以下記事)。
字数制限があるコラムの中に様々な雨の色を映し出し、多くの人の様々な情景と思いを込めた、いい文章である。
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2019年6月7日 西日本新聞 春秋
九州も梅雨入りの季節…
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/516620/
九州も梅雨入りの季節。雨に煙る街並みを眺めながら、ふと考えた。雨って何色だろう
▼北原白秋作詞の「城ケ島の雨」には〈利休鼠(ねずみ)の雨がふる〉。「利休鼠」は暗い灰緑色。わび茶を大成した千利休が好みそうな渋い色だ。松山千春さんの名曲は「銀の雨」。〈貴方(あなた)の夢がかなう様(よう)に 祈る心に銀の雨が降る〉
▼八神純子さんの伸びのある高音が印象に残る〈ああ みずいろの雨〉。水色といえば〈みずいろは涙いろ〉と歌いだすあべ静江さんの「みずいろの手紙」が懐かしい
▼瀬川瑛子さんの「涙色」は〈涙の色は… オリーブの花を 優しく濡(ぬ)らす雨の色〉と。切ない思いを雨に重ねる歌が多いけれど、「雨の中の二人」で橋幸夫さんは〈雨が小粒の真珠なら〉と歌った。別れを惜しむ恋人たちには、キラキラ輝く真珠の色に見えるのだろう。〈濡れてゆこうよ何処(どこ)までも〉
▼雨を歌った童謡も。〈雨がふります 雨がふる 遊びにゆきたし かさはなし〉で始まる「雨」はどこか悲しげ。一方、かあさんのお迎えがうれしくてたまらない子どもの気持ちが〈あめあめ ふれふれ〉と明るく弾む「あめふり」。どちらも白秋の作詞なのがおもしろい
▼本来、水の粒である雨は透明のはず。見る者の思いを色にして映し出す水晶玉か。人の心の数だけ雨の色もあっていいが、74年前に広島と長崎に降った「黒い雨」だけは絶対に見たくない。
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上のコラム「雨の色」に関連して、「涙」にも人の心の数だけ、人生の場面の数だけ様々な「色」があるのだろう。
松山千春は「燃える涙」で、「喜びと悲しみ 背中合わせ 燃える涙は こぼれ落ち」と、喜びも悲しみも全部引き受けて必死に生きる人が流す涙を「燃える涙」と歌った。…いい表現である。
(関連拙稿)
松山千春「銀の雨」―名曲中の名曲 ”あなたの夢がかなうように 祈る心に 銀の雨が降る”