<2019.03.06>起稿

 

 

文豪・山本周五郎は名著「さぶ」の中に綴った。

 

自分に心を向けてくれる人たちに気づき、感謝する生き方を説いたくだりでー

 

「お前が気づくか気づかないかに関係なく、風はいつも四季折々の薫りを運び続けているものだ」(要旨)ーその人たちの気持ちに気づくかどうかは、お前自身の心の問題だ。

 

今朝起きたら春の薫りが届けられた。口ずさむ松山千春「春は来る」

 

2015年4月発表、アルバム『伝えなけりゃ』収録

 

すべてのものの喜びが、花が弾け咲くように開く春。
 

「春のうた」(松山千春/1987年)と同じ三拍子で、希望の象徴と言える「春」の訪れを歌う。私としては時代をこえた名曲と思っている。

 

 

 

風はそよ風 地平線
目指して駈けてく 軽やかに
雪解け水の 冷たさは
まぶしい陽射しに 輝いて

生命 あるもの ひたすらに
待って いたのか 春は来る

遥か山々 気高さよ
舞い飛ぶ鳥たち 青い空
海よ大地よ 草花よ
わずかな 夢から 目覚めたか

生命 あるもの ひたすらに
待って いたのか 春は来る

生命 あるもの ひたすらに
待って いたのか 春は来る

春は来る 春は来る

 

 

海、大地、草花を擬人化して、ほんの短い間の冬の眠りから目覚めたようだ、と歌う。

 

春になれば、長かった冬も短く感じるが、雪国に住む人々にしてみれば決して短い冬ではないだろう。

凍てつく分厚い大地、吹きすさぶ北風、降り積もる雪、そうした冬の暗く長く厚い壁を打ち破るかのように、力強く春が芽生える。

人の人生もまた。

 

冬は必ず春となることを信じて、今の苦境をじっと堪え、時が来るのを待つ。ひとたび時を得たら、蓄えたエネルギーを存分に発揮して、止(とど)まることがない。

 

 

時として、闘病している方に、病状はどうであろうと心を込めて声を贈る。

 

「春になったら必ずよくなりますよ」

 

苦境と闘う友人に言う。

 

「今この状況には必ず意味がある。冬はいつか春になるよ」


「冬は必ず春となる」

 

人生の苦境、辛酸を自分なりに捉えて意味づける。苦境にひるむ弱い心に支配されないから、絶対に他人や環境のせいになどしない。

 

ぜんぶ自分事、自分の人生の一部として昇華している人が力強く発する言葉であり、人々を励ます分かり易く含蓄深い言葉である。

 

その人にとって事態が大きく好転することを見て「春は来た」という場合もある。しかし、一見事態は何も好転していないように見えても、それに対する捉え方がより深まったり、新しい自分自身に気づく、つまり自分自身に対する認識の一層の深まりを実感することによって「春は来た」という場合もある。

 

生命 あるもの ひたすらに
待って いたのか 春は来る


「春は来る」―自然界にも人の人生にも共通するこの原理を、わかり易い言葉で力強く伝えた曲。

 

スケールの大きさと重厚さを併せ持つ松山千春ワールドを代表する名曲と言える。

 


(2019年3月5日筆者撮影)

 

<トップ写真>
【撮影】駒井隆広‎さん
【撮影日時】2017-04-13 11:32am
【撮影場所】滋賀県高島市新旭町
※シェア可能写真

 

【更新履歴】

<2024.02.29>再掲

<2023.02.09>公式音源挿入