「後世への最大遺物

デンマルク国の話」

内村鑑三/1946年10月10日初版/岩波文庫

 

 

キリスト教思想家であり文学者である内村鑑三氏(1861年3月-1930年3月)は、今から125年前の明治27年(1894年)7月、箱根で開催されたキリスト教徒第六夏期学校で講演を行っている。その講演録は「後世への最大遺物」として刊行されている。

 

同書は岩波文庫から刊行され、初版は1946年10月10日。

 

講演はページ数にすれば58㌻程度であるが、これまで数えきれないほど多くの人々がこの講演に勇気をもらってきた。

 

私も学生時代に読んで、心震えるような気持になったことを覚えているし、今読んでもそう思う。

 

 

内村氏は、人が後世に遺すことができるものを4点述べている。

最後の4点目。

 

「それならば最大遺物とは何であるか。私が考えてみますに人間が後世に遺すことのできる、ソウ(原文)してこれは誰にも遺すことのできるところの遺物で、利益ばかりあって害のない遺物がある。それは何であるかならば勇ましい高尚なる生涯であると思います。

(中略)

しかして高尚なる勇ましい生涯とは何であるかというと(中略)、失望の世の中にあらずして、希望の世の中であることを信ずることである。この世の中は悲嘆の世の中でなくして、歓喜の世の中であるという考えをわれわれの生涯に実行して、その生涯を世の中へ贈物としてこの世を去るということであります。その遺物は誰にも遺すことのできる遺物ではないかと思う」

 

 

「勇ましい高尚なる生涯」を伝えるため、カーライル、二宮金次郎、徳川家康などのエピソードを紹介しつつ、その核心について語りかける。

 

「イクラ(原文)やりそこなってもイクラ(同)不運にあっても、そのときに力を回復して、われわれの事業を捨ててはならぬ、勇気を起してふたたびそれに取りかからなければならぬ、という心」を人々に起させること。

 

「人に頼らずともわれわれが神にたより己にたよって宇宙の法則に従えば、この世界はわれわれの望むとおりになり、この世界にわが考えを行うことができるという感覚が起こってくる」

 

「他の人の行くことを嫌うところへ行け。他の人の嫌がることをなせ」

 

「私の望むものは少数とともに戦うの意地です。その精神です。(中略)それでドウゾ(原文)後世の人がわれわれについてこの人は力もなかった、富もなかった、学問もなかった人であったけれども、己の一生涯をめいめい持っておった主義のために送ってくれたといわれたいではありませんか」

 

「種々の不幸に打ち勝つことによって大事業というものができる、それが大事業であります。(中略)それゆえにわれわれがこの考えをもってみますと、われわれに邪魔のあるのはもっとも愉快なことであります。邪魔があればあるほどわれわれの事業ができる。勇ましい生涯と事業を後世に遺すことができる」

 

 

手元のこの本は当時の金額にして300円。たった58㌻分の講演。

 

それと引き換えに、何百倍もの勇ましい心を自分の中から呼び起こすことができる。

 

 

映画「ブレイブハート」(原題: Braveheart 1995年)
Braveheart soundtrack - Main theme

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