本書表3に掲載されている著者プロフィールの最後には「現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者」とある。

 

濱田浩一郎 著

 【勝海舟×西郷隆盛 明治維新を成し遂げた男の矜持~『氷川清話』『南洲翁遺訓』に共通する「揺るぎない精神」】  (2018年7月初版/青月社)

 

タイトルのとおり二人の英傑の遺訓の中から、共通項を見出し対比させながら著者の主張を展開する人生論とも言える一書。

 

著者は「おわりに」で、「海舟や西郷の言葉をそれぞれ個別に論じた書物は多いですが、対比して述べた試みは、管見の限りではありません。その意味でも、本書は他に類のない内容なったのではと思っています」と自負する。

 

第3章最初のテーマ 「批評は人の自由、行蔵は我に存す」

 

勝海舟<氷川清話>

福沢(諭吉)はこの頃、痩我慢の説というのを書いて、おれや榎本(武揚)など、維新の時の進退に就いて、攻撃したのを送って来たよ。ソコで「批評は人の自由、行蔵は我に存す」云々の返書を出して、公表されても差支えない事を言ってやったまでさ。福沢は学者だからね。おれなどの通る道と道が違うよ。

(同書90㌻)

 

西郷隆盛<南洲翁遺訓>

道を行う者は、天下挙って毀るも足らざるとせず、天下挙って誉るも足れりとせざるは、自ら信ずるの厚さが故也。

(同書91㌻)

 

”行蔵は我にあり”―明治25年、福沢諭吉は「痩せ我慢の説」を著し、その中で海舟と榎本の二人を、日本の痩せ我慢の気風を損なわせたうえ、旧幕臣でありながら、今は明治政府に仕えていることも批判した。それを海舟に送り、返信を求めた際に海舟が答えた有名な言葉である。

 

私の行動は自らの信念によるものである。それを見て他人がどう言おうが勝手であり、私の知るところではない。

 

西郷の言葉も本質は同じ。

 

信念の道に生きる者にとって、天下から謗られようが褒められようが関係ないこと。それは自分を深く信じているからである。

 

このテーマを締めくくる際に、これも”我が信じる道をいく”という同じ本質を表明した坂本龍馬の有名な句を紹介する。

 

「世の人は 我を何とも 言わば言え 我なすことは 我のみぞ知る」

(同書93㌻)

 

最後に「海舟も西郷も龍馬も、それぞれの信じる道を突き進んだのです」(同)と述べる。

 

 

上のような形式で、全5章、31のテーマにわたり、海舟と隆盛の言葉をセットで紹介している。

 

 

(本書冒頭に掲載されている、江戸開城に向けての勝海舟と西郷隆盛の会談の模様)