<2018.12.08>起稿

(2023.06.29)

 

 

(2023年)6月28日をもって無事終了した「コンサート・ツアー2023春」でも松山千春は亡き父と母、亡き姉と弟のことを思い、語った。

 

「”俺が小さい時、どうだったんだ?”…そう話せる家族がいないのはほんとに寂しい」―亡き家族の話をする時に松山千春がいつもそう添える。その気持ちがよく分かる。

誰にも、目に見える風景ではない、心の中の原風景があるもので、それを思い出すことでいつでも自分という存在の原点に帰ることが出来る。

 

 

亡き父と母が私を呼ぶ声がいつも聞こえている。父と母と妹と私、家族で食卓を囲んでの笑い声が今も響いている。

 

「おやじ、おふくろが死んだ時、辛かったな。俺も今になれば分かるよ」「おふくろ、あの大変な時、どういう気持ちだった?」…今そう話せる両親がいて欲しいと思うことがある。

 

2023年6月25日に終了したTBS系テレビドラマ「ラストマン 全盲の捜査官」。そのクライマックスシーンで福山雅治演じる主人公の皆見広見が言った。

 

「私は早くに親を失ったから分かります。子どもは親の言葉が聞きたいんです。幾つになっても、どんなことでもいいから、親の言葉が必要な時があるんです」

 

松山千春「父さん」(1982年/LIVE・弾き語り)

 

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(2021.06.20)

 

先日(2018年12月)、父の見舞いに行った折り、父のリハビリを担当してくださっている理学療法士さんが、父と私のツーショット写真を撮ってくれた。父が嬉しそうに写っていた。有り難かった。

 

考えてみれば、父と二人だけの写真なんて記憶にない。

 

明確に記憶に残っていることと言えば…。私の大学卒業式。父が参加してくれた。その二年前に母が逝去している。

 

父が大学の校舎をバックに私を撮影しようとしてくれた。父が「一緒に撮ろう」とも言った。周囲に友達がたくさんいたので、私は照れくさくて断った。

今でも、あの時一緒に撮っていればよかったと、後悔しきりである。

 

自分の子どもが、二年前母親を亡くし、その悲しみを乗り越え頑張って大学を卒業した。父には言葉に出来ない思いがあっただろう。嬉しかったと思う。
 

父の気持ちに思いを寄せることなく、申し訳なかった。

 

~父の病院から帰る時

 

「おやじ、また来るからな」
「おう、気をつけて帰れよ。子どもたち(自分の孫)に、頑張るように言え」

いつまでも父親は父親、息子は息子。あの父と母のもとに生まれて本当によかった。
今になればなるほど、心からそう思う。

「おやじ、おふくろの分まで、長生きしてくれよ」
心からそう願う。

~父はその後、2019年2月6日に死去した。

 

松山千春「父さん」(1977年/LP音源)

 

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(2018年)12月2日放送の「松山千春 ON THE RADIO」で、松山千春がお父様のことに触れた。

 

「俺は、姉ちゃん、親父、早くに亡くしたけど、やっぱり俺がしかっりしなくちゃならない。泣いてられない。(親父の)通夜の晩かな、父さんの布団にもぐり込んで泣くだけ泣いた。あとは人には涙は見せなかったし、みんなの前で、気丈な元気な息子でありたいと思った」(要旨)

 

松山千春著「足寄より」(1979年・昭和54年4月初版)には次のくだりがある。

 

 

小学校4年の時、金になる十勝石があのドブ川で採れると友達から言われた少年・松山千春は、家計を助けるために川に入って泥だらけになって探した。しかしもともと採れるはずがない場所。

友達はその必死の松山千春少年を嘲笑いながら逃げて行った―

「あんときほどくやしかったことはない。(中略)あの屈辱は俺の人生のポイントだ。これが貧乏なんだよ」(同50㌻)
 

お母様は出稼ぎ、自宅で小さな新聞社を営むお父様と過ごす時間が長かった。

極寒の夜、姉弟と三人でお父様の布団に入って眠った。その時、社会や政治の問題を子守唄替わりにお父様が話してくれたと言う。
 

極貧の中、ふるさと足寄で家族と一緒に必死に生きた松山千春の原体験だろう。

「おやじが死んだら、それから俺の人生が始まる。俺のことはそれから考えればいい」(同138㌻)
 

とも綴っている。

 

松山千春の「父さん」(1978年1月アルバム『こんな夜は』収録)の歌詞に

 

「小さく見える 貴方のそばに いつも僕が 父さん 」

 

とある。

 

歌えるようで、なかなか歌える歌詞ではない。父親に感謝を奉げるその心からこそ生まれ出た歌詞だろう。

 

1979年の弾き語りライブ映像(以下映像)では感情を込めて歌い上げている。歌の内容と対照的と思えるオベーションスーパーアダマスの電気的でパワフルな音が、むしろ松山千春の感情にマッチしている感がある。

 

2016年8月9日、日本武道館、弾き語りで聴いた「父さん」もまだ響いている。

 

 

 

白髪まじりの 髪をとかして

少しふけたといいながら

鏡をのぞく 後ろ姿が

やけに小さく 見えて

 

子供の頃 布団の中で

貴方の胸にだかれて

きいて眠った おとぎ話が

思い出せない
 

悲しいです 時の流れが

貴方をかえて行くことが

小さく見える 貴方のそばに

いつも僕が とうさん 

 

貴方の明日に 幸あれと

貴方の明日に 幸あれと

 

 

通りすぎれば つらいことも

 笑い話といいながら

酒をのみほす 貴方の目が

やけに淋しく みえて


きっとこの春 お姉ちゃんを

嫁にだしたからだね

そうだあの時 初めてです

貴方の涙みたのは

 

悲しいです 時の流れが

貴方をかえてゆくことが

小さく見える 貴方のそばに

いつも僕が 父さん

 

貴方の明日に 幸あれと

貴方の明日に 幸あれと

貴方の明日に 幸あれと

貴方の明日に 幸あれと

 

 

 

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【更新履歴】

2024.06.04 公式音源追加
2023.06.29 加筆、公式音源挿入
2021.06.20 加筆・修正、写真差し替え