NHK大河ドラマ「西郷どん」。”西南戦争勃発前夜”的な場面が続く。

 

薩摩では、中央政府に対する士族たちの不満は爆発寸前のところまで来ている。
ドラマはそれを必死に抑える西郷を描く。

 

大久保利通を初めとする政府執行部との「征韓論」に敗れたかたちで薩摩に帰った西郷隆盛。

 

「西郷隆盛(上)(下)」を著した歴史学者の井上清氏は、西郷帰薩の本質は西郷隆盛自身が時代の流れに取り残され、時代に敗れたと主張する。

 

西郷の来し方と当時西郷が置かれた立場を見れば、それは説得力がある。

 

 

「時代はまさに政治、経済、軍事、文化のすべてにわたって、古い封建制とそれを基盤にしたものを、多かれ少なかれ、何らかの仕方で変革するというきわめて原則的でかつ具体的な課題を為政者につきつけてが、西郷はそれを政策課題として受けとめることができていなかった。彼は政治の欠陥を、治者たるものの心がまえ・あり方の視点からは、鋭くまた正当に批判したが、彼自身に具体的な政策論を欠くが故に、政策面の政治批判ができず、たまに政策論らしいものも、いつの時代・どんな社会にもある意味では通用する、抽象的な「根本」論になってしまい、現実的効果をもちえなかったし、こういう彼によっては人事の一新もできるわけがなかった」     (井上 清「西郷隆盛 下」145㌻)

 

廃藩置県も、木戸孝允の構想を西郷が理解・協力し、西郷の立場と力によって実現できた政策である。

 

「彼(西郷)独自の政策大綱もすぐれたブレインもなかったので、大蔵省が次々にうち出す士族の首をしめるような政策に西郷が同意させられるはめになるのであった」  (同 151㌻)

 

廃藩置県しかり、この当時、政府が打ち出す政策の多くは、西郷を支持し続けていた武士階級(士族)の政治経済上の特権を廃止するものへと動いていく。

 

士族の大棟梁・西郷隆盛。士族の特権廃止に動く政策を推進する参議としての西郷隆盛。

この矛盾は西郷の中で重大であった。

 

具体的な政策もブレインも持たない西郷。

その西郷を尻目に新たな時代を作るために打ち出される政策は西郷の支持基盤を揺るがし、西郷を重大な矛盾の中に突き落としていく。

 

井上氏が述べたように、ここに”時代に敗れていった”西郷隆盛の本質があるのだろう。