きっと歌詞とメロディが同時に、かつ自然に生まれ出たのだろう。
松山千春「歩き出してくれないか」(2014年)。とてもいい歌、自然と口ずさむ。
40年来のファンを自負しているが、シングルはまったく買わない。
シングルコレクション「起承転結」がとても新鮮で、「同14」(2018年)に収録されたこの曲はCDでは初めて聴く。
「歩き出してくれないか」「あの日の僕等」「真っ直ぐ」が3曲セットになってこそ、松山千春が伝えたい人生観がコンプリートするような気がしている。そしてそこから「歩き続ける時」に帰っていく。
もう一方で、「歩き出してくれないか」から「道」に戻り、さらには「夢の旅人」にまで遡り、この3曲が順番に聴こえてくる。
「夢の旅人」、1982年リリース。松山千春26歳。真駒内5万人ライブを終え、自身の新しいスタートへの決意を込めた。
「めぐり会う人も 別れゆく人も
いくつもの思い 胸に抱いて
生きてゆくことが 愛の証なら
何も恐れずに 歩いてゆける」
人は誰も ひとりきりさ
それぞれの道を 夢の旅人」
青年がこれからまた自分の道を、夢を抱いてひとり歩もうとうする勢いが伝わる。
「道」、2002年5月リリースのアルバム『egoist:エゴイスト 自己中心主義者』の2曲目。
個人的にこのアルバムの中ではベストの曲。
鈴木宗男氏が日露「友好の家」建設をめぐる疑惑の渦中、高校の後輩である松山千春は鈴木氏を擁護する発言をおこない、バッシングされる。そんな中リリースされたこのアルバム、とくに「道」は鈴木氏のことをイメージしている部分があるのだろうと、当時から思っている。
「君が歩む道があり 僕が歩む道がある」
「出来るならば 迷わずに 辿り着くといいのにね
でもね 道に迷ったら 大声あげてくれないか
泣かないで 泣かないで 君が望むならば
いつだって いつだって すぐそばに僕はいる」
そうした背景からか、聴いていて悲壮感を感じつつも、君がその道を歩く時、いつでも僕は君を支えるから、と他者と自分を意識し、関わろうとする気持ちが現れている。松山千春46歳。
「歩き出してくれないか」、2014年シングルとしてリリース。
「君が僕を捜すなら 僕はいつもそばにいる
だから涙流さずに 歩き出してくれないか
君が僕を慕うなら 僕も君を愛してる
だから前を向きなおし 歩き出してくれないか
人は誰も弱いもの だけど 人はそれぞれに
上手だとか下手だとか 答えなんてないのにね」
君は自分の道を歩む。僕も僕の道を歩む。
生き方が上手いとか下手だとか、誰が言えるのか。誰が比較するのか。
それぞれに唯一無二の尊い人生である。だから、前を向きなおして歩き出して欲しい。
その時、僕はいつも君のそばにいる。58歳の松山千春が優しく歌う。
それぞれが歩む人生の道を讃え歌うことに変わりはなく、それを応援しようとする気持ちに変わりはないが、人生の風雪を経て、円熟味を増した松山千春が、より大らかに、より懐深く、より優しく変わっていくのが分かる。