「新・日本の階級社会」 橋本健二  講談社現代新書 2018/01/20刊

 

1980年前後から日本の社会の中で「格差社会」という言葉が使われ始めたと著者は言う。

既にこの格差状態は40年近くも続いていることになる。

 

最近では所得と教育の関係に大きな相関があり、所得格差がそのまま教育格差を生み、それが固定化し、明らかに正と負それぞれにスパイラルを形成しつつあることも話題になっている。

 

『現代の日本社会は、もはや「格差社会」などという生ぬるい言葉で形容すべきものではない。それは明らかに、「階級社会」なのである』と力説し、そのことを証明するために社会調査データを駆使し、データに基づいて冷静に分析を進める。

 

著者は従来の社会学的階級分類に基づいて一旦は社会を4階級に区分する。

 

(1)資本家(経営者、役員)階級

(2)新中間階級(被雇用者管理職、専門職、上級事務職)

(3)労働者階級

(4)旧中間階級(自営業)

 

しかし本書は、現代の社会問題の根幹とも言える第五の階級を新たに設定し、それを「アンダークラス」と定義した。

労働者階級の中で、その賃金や生活レベルの格差などにより「正規労働者」と「非正規労働者」に分離する必要が出てきたためだ。

 

「アンダークラス」(=非正規労働者)は就業人口の約15%を占め、平均個人年収は186万円と他の階級に比べて極端に低く、貧困率は逆に極端に高い。

さらにそれは経済的困窮だけでなく、心身の健康や人とのつながり、という点でも他階級と大きな違いが出始めている。

 

つまり、上の四つの階級の(3)と(4)の間、もしくは(4)の下あたりに「アンダークラス」が置かれるのではなく、表記すれば、(1)(2)(3)(4):アンダークラスという四対一の構図が成り立つほど、他四階級との格差が激しい。

 

そしてこの五つの階級間の移動性がますます低下し、階層が固定化している実態をデータを用いて検証する。

 

「アンダークラス」を表に出したことで、日本社会の「格差」を超える「階級社会」としての問題点を見事にあぶりだしている。

 

そしてこれも意識無意識に関わらず、今の日本に蔓延している「自己責任論」

つまり貧困は、その人の努力が足りなかった結果であり自己責任、やむを得ない、とする風潮。著者はここにも格差を生み出す原因の一端があると鋭く斬り込む。

 

自己責任とは「自分に選択する余地があり、またその選択と結果の間に明確な因果関係がある場合に限られるべきだ」とし、「正規雇用を望みながら果たせず、生活の必要からやむを得ず非正規労働者として働いている」状況はむしろ「社会的な強制」と主張する。

 

配偶者との離別、死別などによってやむを得ず非正規労働に従事する場合も多々ある。これとても「社会的な強制に他ならない」と説く。

 

さらに「自己責任論」は、貧困を生みやすい社会の仕組みと社会を生み出し、放置してきた側への「免罪符」となっている。本来責任を取るべき人々を責任から解放(免罪)し、責任のない人びとに押し付けるものである、とイメージばかりが先行する「自己責任論」に止めを刺す。

 

膨大なデータを駆使し冷静沈着に、ソフトな言い回しで論を進めてはいるが、その根底には格差社会の下層で苦しむ人々の実態と気持ちに目を向け、その克服を願う著者の”熱い思い”が全編通して強く伝わってくる。

最後に、格差社会の克服のためのいくつかの著者の政策案を提示するとともに、格差社会の克服を望む人々を結集する新たな政治勢力の形成に期待を寄せている。

 

格差を学び論じる上で上質な基本書である。