先日、松山千春が自分のラジオ番組で小室哲哉さんの引退について「自分の歌を聴いてくれる人たちがいる限り、引退してはいけない」という趣旨の発言をしていた。
松山は小室さんにも「直接言う」そうだし、小室さんへの非難という雰囲気はまったくない。
松山が自身歌い手としての決意を含めた発言であり、同業の小室さんへのエールだと思った。
23日の日本経済新聞コラム「春秋」(以下全文引用)。
最初に余談を書けば、この中の古市氏の時代と音楽評は確かなものだと思う。ベストセラー『絶望の国の幸福な若者たち』(2011年)を著した若手社会学者だ。
私が小室さんの引退とその理由を報道するニュースを見たとき、思ったことと同じ趣旨だったため、最後のくだりはとても頷けた。
「家族のケアはこれまで主に主婦が担い外から見えにくかった。ファンか否かを問わず、一つの問題提起として受けとめたい」
引退の理由は不倫により多くの方々に迷惑をかけたためだと言う。その不倫の理由は病気の奥さんの看病疲れ、介護疲れ。心休まる場を求めたと。
不倫を良しとするつもりは毛頭ない。
しかし病気や認知症などの家族の看病、介護は想像を絶する。一日付き添っただけで身心の疲労度合いは大変なものだ。経験した人にしか分からない。
それが長期に渡れば「第2の患者」やその予備軍を間違いなく生む。
例えば認知症患者数は現在約460万人、65歳以上の高齢者の7人に1人と言われている。これに軽度認知障害(認知症の前段階)の人約400万人を加えると、高齢者の4人に1人は認知症もしくはその予備軍と言われている。1:1とまでではないが、これにある程度の割合で介護する家族がいる。
小室さんが一緒に病気と闘う奥さんを忘れるはずがないと思う。
しかし、疲労がピークに達しているとき、ふと話しを聞いて欲しい、誰かにそばにいて欲しい、そう思うのはある意味自然だと思う。
重ねて、不倫が良いということではない。
ただ、不倫→引退、という構図ばかりがセンセーショナルに報道されがちな昨今。
芸能人ではあるが、身心ともに疲れ果てた一私人を、一般論、正論でこれ見よがしにたたくのはもういいのではないか。
それよりも、「春秋」が言うように、これまで表に出ずらかったこの「第2の患者」について、もっと問題提起して、社会全体の課題にまで高めて欲しいと願う。
春秋 2018/1/23付 日本経済新聞
先週、小室哲哉さんが音楽活動から退く旨を表明した。1990年代、かの人のつくる歌は若者、特に女性たちから圧倒的な支持を得た。その理由を新潮社の雑誌「ROLa」2013年11月号で、若手社会学者である古市憲寿さんの問いに応じて自ら振り返っている。
▼バブルの頃までの女性は男性に支えられていた。しかし90年代、女性から「男の人の影」が消える。同性が憧れる自由でたくましい姿を、少し不良な少女を主人公に描いた。そんな趣旨だ。この頃から若者は恋の歌よりも、生きづらさを嘆き、励ましあう歌を仲間とカラオケで熱唱し始める。流れの走りに小室さんがいた。
▼不況ニッポンで若者の心を支えたのが、安室奈美恵さんなどの小室ファミリーやZARDこと坂井泉水さんの歌であり、自由闊達なふるまいがアイドルらしからぬSMAPだった。坂井さんが亡くなって10年がたち、SMAPは解散を余儀なくされ安室さんは引退を表明。そして今回の会見だ。ファンの落胆が想像できる。
▼引き金となった醜聞の背景に妻への介護疲れを挙げた点も広く波紋を呼んでいる。認知症の親の介護で離職する人が増えた。がん患者の家族も心が弱りがちなことから第2の患者と呼ばれる。これら家族のケアはこれまで主に主婦が担い外から見えにくかった。ファンか否かを問わず、一つの問題提起として受けとめたい。