私は以前海上自衛官として勤務していたことがあります。これから紹介する内容は海上自衛隊がメインとなります。また、在職当時の記憶を基に述べているので状況が変わっている可能性があります。それと陸空は殆ど知らないので合わせてご了承ください。

元自衛官でしたって言うと、周りの人から自衛隊って免許色々取らせてくれるんでしょ?ってよく言われますが、陸海空によっても部署によっても違います。陸自や空自はトラックを多用するため、大型自動車免許を取らせてくれるらしいですが、海自は少数の陸上部隊だけです。

余談ですが、通常普通免許取得後3年以降でないと取得できない大型自動車免許が、自衛隊は特例により免無しからいきなり取得できます。

また、先に述べたようにその部署で必要な免許しか取らせてくれないので、機甲科(戦車部隊)なんかは大型特殊免許(カタピラ限定)なんて、へんてこな免許を取ることになったりします。

では、海自はどうなのか?というと、メインはやはり船乗りです。船というと一般の人が思い浮かべるのがプレジャーボートですよね。いずれ紹介しますが、一般的なプレジャーボートは小型船舶操縦士免許に該当します。大型船の免許は別に存在し、海技免状と言われるものです。じゃあ、海自で船に乗ったら海技免状取らせてくれるの?って思うかもしれませんが、そうは問屋がおろしません。

なんと、海自の護衛艦等の大型船は海技免状無しで運航できるのです。詳しくは省きますが、海事関係法令で自衛隊の船舶については色々除外規定があるので、免無し運航が可能なんです。ですので1万トンを超えるような大型艦の艦長さんでさえ海技免状を持ってないことがあり得るのです。

流石に何も船の勉強せずに乗るというのは無理なので、部内の学校で勉強したり、乗船実習を受けたり、海技免状に準じた部内試験をクリアしたりしてきちんと船を運航するための教育を乗組員は受けています。

近年は自衛官にも海技免状を取得させようとしているらしく、海技免状取得のための課程があるようです。乗組員全体から言えば少数ですが、自衛隊で取らせてくれる資格が増えるのはありがたいことです。海技免状は商船高専等の海事関係学校を卒業しないとなかなか取るのが難しいのです。ただし、海技免状を取得した隊員が中途退職して海上保安庁(免状保有者の採用枠がある)や民間の船会社へ流出するといった弊害もあるようですが。

他にも取らせてくれる資格があるのかと言うと、微妙なところです。というのも私が在職中は斡旋はするけど取りに行くのは自分で勉強して勝手に行け、というものでした。私の担当部署は機関科でしたので、燃料等の危険物、ボイラーといったものを取り扱っていました。ですので危険物取扱者の試験を受ける機会がありましたが、当時入校していた部内の学校の教官が「危険物の試験受けたいものは申し出なさい。申込用紙あるから記入して提出。受験手続きはしておくから。ただし、受験費は自費で、試験勉強も自分でしてね。」といったものでした。また、ボイラー技士については入校期間中に試験日がないから受けることは叶いませんでした。

乗組員は船が出港してしまうのでちょっと先のスケジュールも立てれません。入校中以外はまず資格試験を受けることは不可能に近いと思います。消防設備士や海上無線通信士、火薬類取扱保安責任者といった資格に関連した部署で勤務する可能性があっても、実際に資格を取るというのは困難だと思います。一応、本人に資格取得に対する強い熱意(当然自費、自主受験)があれば受験スケジュールについて多少考慮してくれてたみたいですが、在職当時の私は資格取得にほとんど興味がありませんでした。

例外というか、海自において資格を取らせてくれる可能性があるのは、定年退職時と任期制隊員の任期満了退職時です。自衛官は一部の高級士官を除き、定年が55歳前後です。また任期制隊員といって契約社員のような形態の人たちは概ね20〜30代で退職します。その人たちの再就職斡旋のため、いくつか資格を取らせてくれるというのはあります。

長々と書きましたが、最後に自衛官及び元自衛官の方へ向けて一つだけ。艦に乗って運航に関わる部署に配置されれば海技免状取得のための乗船履歴(実務経験)は貯まります。試験勉強は大変ですが、頑張れば海事関係学校に行かなくても海技免状を取れるチャンスができますので、退職後も船の仕事につける可能性が出てきます。海技免状取得についてはまた別の記事で紹介します。