きこえない・きこえにくい人が舞台を観る時、
字幕や手話通訳がない舞台の場合は、内容を知るために、
台本資料を事前に読むことが必要になります。
 
台本も何もない場合、
衣装・セットなど目で見えるものは分かりますが
ストーリーや、セリフ、歌などの肝心の内容は分かりません。
 

一昔前、台本を借りるのは一苦労でした。
2016年に「障害者差別解消法」が施行され、
その後東京では「障害者差別解消条例」も施行されて、少しずつご対応いただけるようになりました。
 

しかし現在も、台本の貸し出しを巡って、さまざまなことが起こります。 
今までに実際にあった事例をご紹介します。
 
(写真は国立能楽堂の字幕)
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事例① 

大好きな小説が舞台化。
聞こえなくても、舞台の内容を理解して観たいと熱い想いを書いて、台本の貸し出しをお願いしました。
 
劇団担当者:
「原作がお好きならストーリーは分かっているので、台本がなくても大丈夫ですよ!」
 
 
親切にも、舞台版はどんなストーリーになるのか教えて下さったのですが、
小説と舞台はイコールではありません。

役者さんが何を喋ったのか、ミュージカルの場合はどんな歌を歌ったのか、ということも舞台において大切なポイントです。
 
台本がなければ、動いている役者さんや衣装、舞台セットを眺めるだけの観劇になることをお伝えしたところ、無事に台本をお借りすることができました。
 
 
 
事例②
「台本は開演の30分前に返却して下さい」
 
こちらは誰もが知る有名芸能人が多数出演する舞台です。
 
私は基本的に、開演ギリギリまで台本を読んで、必死に内容を暗記しています。

セリフを覚えている部分だけは、役者さんの素晴らしい演技を味わいながら観ることが出来るので
どれだけセリフを多く覚えるかということが、舞台を楽しむ鍵となります。
 
30分前に台本を返しては、記憶したセリフも忘れてしまいます…。
 
台本がなぜ必要なのか、どういう風に読んでいるのか説明したところ、なんとか幕間までお借り出来ることになりました。


 
事例③
「台本は人目につかない所で読んでください」
 
 
当日、開演までは外で台本を読み、幕間は人のいない所でコソコソと読みました。
(自分の席で読むことは断られました)
 
S席で1万円超という、安くない金額を払って
ゆったりとした気分とは、ほど遠い観劇になったことは残念でした。
 
今思えば、人目についても問題ないように台本にカバーをかけて客席で読めるよう、引き続き交渉するべきでした。
 
実は②と③はセットで起きた出来事です。
最初に、②の開演30分前に台本を返却してくれと言われました。
それでは内容が理解できないとお伝えしたら、
③の人目につかないところで読んで、というお話があったので、もう疲れてしまいました。。
 
 
(追記)
観劇後、劇団の方にその理由を聞きました。

「他の客が(私が台本を読んでいるのを見て)不審に思うから」だそうです。
 
人に見せびらかすように読んでいるわけではありません。カバーをかければ目につくことは防げると思います。
おなじチケット代を払って観ている観客にかける言葉として、とても残念な言葉でした。

たとえ台本を読んでいる客がいたとしても、
ああ聞こえない人なんだなと思っていただける、
様々な観客がいることが当たり前になるといいですね。
 

 
事例④
(今回は貸し出しましたが)今後、演目によっては対応が難しい場合がございます。予めご了承ください」
 
これは今まで複数の劇場、劇団から言われたことがあります。
おそらく親切でおっしゃってくださっているのですが、それでは次回も安心してチケットを買うことができません。
 
演目によっては聴覚障害者はお断りか…と思うと傷つく一言です。 

 
帝国劇場の台本貸し出しサービスをご紹介し、劇団内部での改善をお願いしました。
交渉するうえで、他社事例は大きな力になります。
 
帝劇は、権利の厳しそうな海外もの、原作もの舞台ばかりなのに、台本貸し出しをきこえない観客向けサービスとしてホームページで公表しています。
問い合わせも、電話とメールの二つの窓口を設けています。
(劇団によっては、問い合わせは電話のみということがあります)
 
 
 
事例⑤
劇団「台本は貸し出せないのでチケット代を返金します」
 
私「チケットを取るのにすごく苦労したんです・・・(涙)観るので返金は結構です」
 
〈数日後〉
劇団「台本がご用意できました。ご来場をお待ちしております。」
 
 
抽選倍率も非常に高く、一般販売は秒でソールドアウト。そんな中、何とか購入できたプラチナチケットでした。

返金しますと言われたのはショックでした。
大好きな劇団から、観に来ないでくださいと言われたのと同じことでした。
しかしその後、担当者の方も粘ってくださいました(涙)
 
 
 
事例⑥
「すべてのお客様に公平に対応したいので、台本は貸せません」
 
聞こえる人から要望があっても台本を貸すことは出来ないので、聞こえない人にも貸しませんということでしょうか?
ほほほ・・・☺️
(殴って差し上げようかしら)
 
本当の公平とはどういうことか、ということをこんこんと説明したところ、
台本を貸していただけました。
 
平等 (EQUALITY) と公平 (EQUITY) の違い
 
 
事例⑦
劇団「台本を貸し出すことはできません」
 
私:分かりました・・・(チケットは既に買ってるし困ったなぁ…)
 
<別の日に改めて問合せ>
 
私「母が聞こえないのです。でも舞台を楽しみにしているんです…なんとかなりませんか?(涙)」
 
劇団「わかりました。貸し出しましょう。2週間前に送ります」
 
ロングラン上演でも客足が途切れないことで有名な劇団です。
10年ほど前のことで、障害者差別解消法もなかった時代。いちど断られれば、絶対に台本を借りることは出来ませんでした。
 
聴力がどんどん落ちてきて、台本がないとストーリーを理解して舞台を観るのは難しいということが分かってきて、、、、
それでも好きな舞台だったので必死でした。
 
なお、聞こえない母は居ません・・・
観るのは私です・・・・・・あせる
 
基本的に、聞こえない客のために、何とかしてあげようと思っていただけるよう、
何度も交渉して、台本をお借りしています。
 
 
 
以上です。いかがでしたか?
 
すべて平成後半から令和にかけての事例です。
昭和の事例ではありません。
 
 
 
ほんとにこんなことが起きるの~?と思われた方は、こちらのブログもご参照ください。
 
あちこちから断られたり、時にはお返事がなかったり。
大変な苦労をして台本を借りられています。
交渉しているのは私だけではないと、勇気づけられました。
 
 

お願いしてもお返事がないということも、よくあります。

1週間経っても返信がなければ、もう一度連絡しています。1ヶ月くらいしてやっとお断りの返事が来たこともあります。

 

 

どんなに手を尽くしてもどうしようもない時は、
最後は法律に基づいて、
何とかなりませんか?良い方法はありませんか?
とお願いしています。
 
 
・障害者差別解消法
 
・東京都 障害者差別解消条例
 
追記)東京都の場合、障害者から差別を解消するよう合理的配慮の要望があった場合は、過重な負担がない限り対応することが事業者も義務となっています。
過重な負担があるのであれば、お互い交渉のうえ、折り合いがつくところを探していくのが望ましいです。
 
 
 
今年の三月に参議院議員会館で行われた
「共生社会の実現を目指す障害者の芸術文化振興議員連盟」では、
議員の方々、文化庁、総務省、演劇関係者、映画関係者、他 多数出席する場で、

私も所属するNPO団体「TA-net」さんから、
『聴覚障害者へ台本の貸し出しを断ることがないよう、文化庁から啓発・指導をお願いします』と申し入れを行いました。
 
これからも、舞台という素晴らしい芸術の場が、
皆で一緒に楽しめる場でありますように。
誰かが悲しい想いをする場ではありませんように、願ってやみません。