〈2022年に書いた記事を再投稿します〉
たとえば、リアルタイム字幕がある舞台では、
役者さんの発声のタイミングに合わせて、台詞(文字)がタブレット端末などに表示されます。
字幕がない舞台では、事前に台本をお借りして内容を覚えることが多いです。客席は暗いので、観劇しながら台本を読むことは殆ど出来ません。人間の記憶力には限界があるため、ほとんどのセリフはわからない状況で観ています。また当日は直前まで台本を読んで記憶するため、トイレに行ったり物販を楽しんだりする時間もありません。
数年前、字幕対応は難しいという劇団から許可をいただき、自分のタブレット端末に台本データを入れて、さらに光が漏れにくくなる工夫を施しました。
そして劇場に端末を持ち込み、自分で端末を読みながら観劇をさせていただく機会がありました。
客席2000席規模の非常に大きな劇場です。
台本タブレットはセリフに合わせて自動的に文字が出てくる字幕ではありません。自分で今どこの台詞を話しているか把握して、進行についていく必要があります。
とはいえ、個人的には紙台本を事前に読んで覚えることに比べると、芝居の内容がわかりやすかったのです。当日、主催者側スタッフからも後ろから端末の光が見えないので驚いたというお言葉をいただきました。
現在、この光が漏れないタブレット台本方式は、
宝塚歌劇
東宝 (帝国劇場・クリエ・外部)
Bunkamuraシアターコクーン
梅田芸術劇場
日生劇場
等の主催公演で導入されています。
ここから、光が漏れにくい鑑賞サポート端末を作る方法を書いていきます。私のような素人でもできるものです。決して難しいものではありません。
・字幕に対応したいがどうしても難しい、でも何かサポートしたい主催者
・字幕端末の光が漏れるため後方席を案内しているが、本当はチケットの席で観て欲しい主催者
・主催者に許可をいただき、文字サポートのために端末を持ち込みたい聴覚障害当事者の方
この様な方に、ご活用いただけたら幸いです。
必要なもの
①タブレット端末
一般的な台本データを読む場合は10インチ以上のタブレットが見やすいです。おすすめは、iPad、Lenovoなど。
※お勧めできない端末
・HiGrace MB1001→非常に安いタブレットです。台本の文字がぼやけて表示されてしまいます。また不具合も多いです。
・Kindle→アプリが少なく、推奨するアプリが使えません。怪しいアプリも多いです。
②市販のプライバシーフィルター
プライバシーフィルターは必ず360度覗き見防止タイプを選びます。
180度 覗き見防止タイプは光が漏れます。
安いのですがお勧めできません。
これは、周りの観客からタブレットの光が見えないようにするにはどうしたらいいんだろう?と考えてひらめいたもの💡
タブレット端末による字幕を提供する企業や団体さん、まだ端末に360度覗き見防止のプライバシーシートを貼っていなかったら、ぜひお試しください。字幕席を劇場の最後列に指定する必要はなくなります。
大きな劇場の最後列だと、役者の表情が見えず、声もよく聞こえないので、字幕の文字だけでは感情を読み取るのが大変なのです。何卒!
ここから具体的な準備、設定方法です。
事前準備、設定について
1)パソコンで台本データ(PDF)を作る
もしタブレット閲覧用データを作ることができるなら、下記のような配慮をすると読みやすくなります。
・見やすく大きめのフォント(UDフォントなど)
・横書き(縦書きよりも視線移動が少なく、目への負担が減ります。リアルタイム字幕は必ず横書きです)
・セリフの前に話者名をつける(誰が喋っているか分かりやすくなる)
・雷鳴、舞台転換、などのト書きの情報も少し入れる
※自分でセリフを探して読むので、今どのセリフを言っているのか分からなくなった時に、ト書きの情報が助けになります。
※長いト書きを入れる必要はありません。舞台を観ながら長いト書きを読むのは大変。進行についていけなくなります。
2)端末に「Sidebooks」というアプリを入れる
PDFを閲覧できるアプリです。無料。
3)台本データを端末に移し、Sidebooksアプリで設定を行う
このような設定がアプリ側で設定できます。明るさは一番暗く設定します。
・余白の削除
・ページのめくり方向の変更
・スライド方向の設定
・明るさの調整
・余白の色設定
4)端末の設定(白黒反転・輝度調整)を行う。
台本が白いままだと暗い場所で読みにくいため、白黒反転します。(PDFにするときに白黒反転しても良いと思います)
ここではiPadやiPhoneの設定を書いています。Androidタブレットも同じような設定がある端末があります。説明書をご確認ください。
【端末の設定方法】
①端末が自動で明るくならないようにする
設定→アクセシビリティ→画面表示とテキストサイズ→明るさの自動調節→オフにする
②一定時間、画面を触らないと画面が消える機能をオフにする。
設定→画面表示と明るさ→自動ロック→なし
③画面を白黒反転する
設定→アクセシビリティ→画面表示とテキストサイズ→反転
④輝度を一番暗いレベルまで落とす
※明るいところでは文字が見えなくなりますが、場内が暗くなると見えますのでご安心ください。
5)プライバシーシートを表面に貼る。
自分の端末で貼りたくない場合は、表面に載せてテープで留めておくだけでもOK。
6)アプリで本を開き、照明を落として真っ暗な場所で読んでみる
実際の端末はこんな感じです。
プライバシーフィルターをつける前
輝度を最低レベルまで落としていますが、白い文字が見えてます。暗い劇場内では文字がくっきりと見え、光が漏れてしまいます。
引用)『A Fairy Tale』ル・サンク
プライバシーフィルターをつけた後
左右の人からは何も見えません。
暗い場所では、端末を正面から見ている人にだけ文字が読めます。
このように周りから端末を見えにくくすることで、どこでも好きな席で端末と共に観ることができます。
実際に端末を持ち込んで利用した際、お隣の方や対応してくださった劇場の方に伺ったところ、劇場内が暗くなっても全くわからなかった、とコメントを頂きました。
観劇前〜当日の対応について
鑑賞サポートがあることを告知するとよいです。
例えば、ホームページやSNSで告知する、場内に張り紙をする、アナウンスするなど。
ツイッターでタブレット利用者の隣の方が感想を書かれていましたが、全く問題はなかったそうです。
今日お隣りの方がタブレット端末使用での観劇だっのですが劇場スタッフの方が周りの方に説明して回っていました。タブレットの光は全く気になる事はなかったです。
— ぽん🌺 (@pon0305ray) February 7, 2021
早く正式なサービスになるといいですね! pic.twitter.com/UpsPrY0lc9
※現在、このタブレットサービスは正式サービスになっています。
今日のお隣の席の方が「鑑賞サポートタブレット」を使用していたのですが、光が全く漏れることなく、気になることはありませんでした。
— 華綾 ♪ あなたと会いたかっただけ ♪ (@florist_ka_a_ya) December 4, 2021
逆にその明るさで見えてるの?と心配になるくらい。
宝塚ファンのお友だちのお子さんも耳が聞こえないんだけど、いつかいっしょに観に行ける日が来るといいな。
宝塚の鑑賞サポートはSNSで素晴らしいと絶賛の嵐です!鑑賞サポートが広がることで、劇団側も観客満足度を高める効果があるのではないでしょうか。
でも、冒頭でも書いたように、本来は、せりふに合わせてリアルタイムで文字が出てくる字幕が必要です。
とはいえ、
字幕をつける予算がない、、、、
人手がない、、、
そんな時でも、観劇サポートを行っていただける劇団が増えますように。
そして少しずつ、舞台を観る聞こえない・聞こえにくい舞台ファンが増え、更に良いリアルタイム字幕サポートを実施する舞台も増えていきますように。そんな願いを込めて、公開します。
* * *
【補足】
2016年に障害者差別解消法という法律が施行されました。
更に、東京都では2018年に差別解消の推進に関する条例が施行され、劇団・主催者(事業者)は、過重な負担がない限り障害のある観客から「鑑賞における障壁を無くして欲しい」という合理的配慮の要望を断るということが出来なくなりました。
また、対応を断ったことが、社会的に問題になるケースも増えてきました。
そして2024年4月からは全国で事業者も合理的配慮が義務化されます。
鑑賞サポートには、
こんなメリットもあります。
劇団・劇場側は観客の裾野を広げることができる(聞こえにくい人も観に行きやすくなる)
聞こえない・聞こえにくい観客側は、開演までに必死で台本を読み、記憶する負担が少なくなる
人はみな、年を重ねるにつれて聴力は少しずつ落ちていきます。突発性難聴等、人生の途中で聞こえなくなった人も沢山います。聴力が落ちれば、台詞や歌詞のある舞台を十分に楽しむことは叶いません。
素晴らしい舞台が、あらゆる人にとって、
心から楽しめるものになることを願っています。
* * * * *
この内容を劇団、劇場、制作会社などが鑑賞サポートを行うために参考にしていただくのは問題ありません。どんどんお使いください。
ただ被害が生じた場合の責任は当方では負えませんので、何卒ご了承ください。
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