孤独・孤立対策に関する緊急提言

令和3年2月25日

自由民主党若手有志による孤独対策勉強会

1. 孤独・孤立対策が求められる背景と意義

◯ 産業構造の変貌や、グローバリゼーションをはじめとする「経済環境の急激な変化」、核家族化や少子高齢化など「家族の変化」、過疎化、人口流出、高層住宅やワンルームマンションの増加など地域や住宅の変化などによる「都市環境の変化」、さらには新型コロナウイルスの感染拡大防止のための外出自粛、新たな生活様式への変化などによって人々の「つながりが希薄化」しており、孤独や(社会的)孤立の問題が深刻かつ顕在化している。

 

◯ コロナ禍の衝撃的な数字として令和2年年間の累計自殺者数(20,919人(速報値))は、対前年比750人(約3.7%)増。年間としてはリーマンショック後の2009年以来、11年ぶりに増加。孤独および(社会的)孤立は、自殺関連問題のリスク要因であるとの指摘もあり、早急な対応が必要である。小・中・高校生の自殺者数が統計開始以来過去最多となり、女性もまた、深刻化している。一方で男性の自殺者も依然として高水準であることも付記しておく。

 

◯ 自殺に至らなくても、生活環境の激変、貧困、DV、虐待など、さまざまなトリガーによって、いわゆる社会的孤立状態に陥るなどして、孤独を抱えている人がいる。こうした人を政府として「支援対象者」と明確に定義し、支援対象者が、誰かと繋がりたいと望んだときに、確実に人や地域にアクセスできる「つながる仕組み」を構築しなければならない。

 

◯ 菅政権の目指す「自助・共助・公助、そして絆」のある社会の実現のためにも、孤独、(社会的)孤立の問題は避けては通れない。孤独やいわゆる社会的孤立を社会全体の問題として捉え、政府が主導的役割を担いながら、全省庁にまたがる対策を総合的に推進していく必要がある。対処療法的アプローチではなく、「孤独(感)」に苛まれることのないよう、根源的なアプローチを両輪で進めることが極めて重要である。

 

2. 基本戦略の策定

I. 望まない「孤独」対策の推進

◯ 「孤独」については、その定義は専門家等によっても様々であるが、

一般的には、個人が現実に経験している社会的関係が、当人がもちたいと望んでいる関係に比べ不満足であると自認されているときに生じる不快な感情であると考えられる。一方、「社会的孤立」については、家族や地域社会との交流が著しく乏しい客観的状態であると考えられる。すなわち、社会的に孤立していれば孤独を感じる可能性は高まるが、社会的に孤立していても孤独を感じない人もいる。逆に社会的に孤立していなくても孤独を感じる人もいる。

社会的資源が有限な中、「望まない孤独」が問題との認識の下で、対処療法的および予防的アプローチを推進する。

 

II. EBPMの推進 ※EBPM(Evidence Based Policy Making, 証拠に基づく政策)

◯ 我が国においては、各種メディア等において、「孤独を愛せ」「孤独が人を強くする」といった精神論が多く見受けられる。また、客観的な社会的孤立および主観的な孤独は明確に違うものであるにもかかわらず、行政による公的な定義が存在しないため、「『孤独死』と『孤立死』」に代表されるように、「孤独」と「孤立」に関する曖昧な表現が散見され、支援対象者の特定に混乱が生じている。このため、まず「孤独」と「孤立」の定義を政府として定め、その定義に基づいて、孤独やいわゆる社会的孤立の実態を全国規模で調査するための指標の開発を行う。そして、それらの指標および結果の利用を大学等の教育機関、民間企業などで共有できる仕組みの構築を行いエビデンスに基づいた改善が行われるようにする。

 

III. 孤独・孤立問題対策会議の創設

◯ 孤独やいわゆる社会的孤立は全省庁にまたがる問題である。これらの問題の現状および影響等を社会全体の問題と認識し、孤独やいわゆる社会的孤立を政策立案にあたっての考慮事項とするためにも、孤独・孤立担当大臣を中心に縦割りを打破する対策会議を設置する。

3. 孤独・孤立にまつわる定義や指標の策定

I. 「孤独」の定義の明確化

◯ 2018年より「Minister for Loneliness」を設置している英国政府は、「孤独(Loneliness)」の定義として、Perlman・Peplau(1981)1 の“a subjective, unwelcome feeling of lack or loss of companionship. It happens when we have a mismatch between the quantity and quality of social relationships that we have, and those that we want.” を採用した。この定義は、孤独の定義としては一般的であり、日本語訳されたものも複数存在する。こうした諸外国の事例および、先行研究等を踏まえて、政府として孤独概念を定義し、明晰化することで、基本戦略にあるEBPMの推進を図る基盤を整える。

II. 「孤立」の定義の明確化

◯ 前述したとおり、いわゆる「社会的孤立」については、専門家等によっても様々であるが、Townsend(1963)2による「家族や地域とほとんど接触がないという客観的な状態」という定義が一般的に用いられている。また、「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律(平成30年法律第44号)」において、「生活困窮者」の定義が明確になり、いわゆる「社会的孤立」についても触れられている。3こうした政府内での議論を整理し、改めて、いわゆる「社会的孤立」の定義を定めるべきである。

 

III. 指標の策定

◯ 政府による政策的アプローチの推進と発展を目的として開発された「孤独(Loneliness)」の指標は、英国全国統計局(ONS) が2018年に、UCLA孤独感尺度などをベースにして開発したものがある。それを元に、指標の質問項目や応答カテゴリーを日本語訳し政府としての孤独の指標およびカットオフ値を定める。

◯ 孤独とは違い、「社会的孤立」を全国レベルで図るための客観的指標を政府が開発した例はない。孤独と同様、「社会的孤立」の概念も曖昧ではあるが、Peter Townsendが社会的孤立を得点化するために用いた3つの指標等が存在するため、それらをベースに総務省統計局や有識者を招いた意見交換会等も開催したうえで、指標を開発し、カットオフ値を定める。

4. 具体的な施策

I. 社会的処方の検討

◯ 孤独や社会的孤立の改善、不安や抑うつの軽減、自己肯定感の向上に加え、家庭医療、救急の利用、病院への紹介の減少とコスト削減につながることが示唆されている社会的処方(social prescribing)の実現に向けた検討を開始する。その際、民生・児童委員制度の活用や、国立公園の利活用、美術館の入場券の配布、医療機関のみならず、心身に問題を抱えた人が利用する相談窓口における取り組みの実施等も合わせて検討する。

 

II. 政府広報キャンペーンの展開

◯ 全国民を対象として、「『孤独』やいわゆる『社会的孤立』は自己責任ではない」、「誰かに頼ることは恥ずかしいことではない」といったメッセージの発信につとめ、各種相談窓口への利用を呼びかける。この際、幅広い世代、性別、属性に“刺さる”メッセージとなるよう、性別的役割などに対しても十分な配慮をする。

 

III. 相談支援体制の強化・統合そして検証の推進

◯コロナ禍で入学式・入社式はおろか一度も同級生や同期に会えぬままオンライン授業やテレワークが続き、しまいには帰省すら出来ず孤独を感じている若い世代が多くいることが各種アンケートでも浮彫になっている。モチベーション維持のみならず心身の健康維持に学校や企業が主体的に取り組み、実態調査や支援に繋げるための対応を推進する。

 

◯ 現代の児童・若者の生活習慣や文化、心性にあった相談手法である、SNS・チャット相談窓口の相談支援体制を強化する。相談員の研修や相談応答のリモート化の支援のほか、相談が多いとされる深夜帯の相談員確保のため相談体制の見直し、時差を活用した海外在住邦人の相談員登用を推進し「切れ目ない支援」を実現する。

 

◯ 相談窓口へのアクセスを容易にするため、現在、多数存在している電話相談窓口を3桁(例:783、ナヤミ)に統合する。

 

◯ 窓口に寄せられた相談内容、時間、性別、年齢、属性等のデータを検証し、それに基づいた対策を学校、職場などで展開する。

 

〇GIGAスクール構想に伴い進められる一人一台端末から、児童・生徒が相談できるよう(SNS)相談機能をデフォルトで設定する。

 

〇ウェルテル効果の検証を報道機関、検索サイト、SNSと連携し行う。自殺を誘引し兼ねない過度な報道や発信、もしくは誹謗中傷に対する措置の強化を検討、実行する。

 

IV. 生活困窮者や高齢者等のデジタル孤立の防止

◯ 行政や銀行における手続きなど、様々な分野でデジタル化が推進されている中、WiFiや有線LANによるインターネット接続環境の整備及びインターネットに接続できる端末の購入が難しい生活困窮者世帯や、端末の使い方がわからない高齢者等がデジタル化から取り残されて「デジタル孤立」状態に陥らないよう、支援する。

また、防災IP無線等も高齢者や障がい者などが使いやすい機材の開発、運用を支援する。

 

V. つながりを促進する地域・住宅政策の推進

◯ 都市計画法や建築基準法において採光、換気、衛生など健康に関する規定はあるが、社会的関係に関するものは存在しない。昨今のプライバシーとセキュリティの優先化により、むしろその位置づけは低下している。学校、行政や公共施設、職場、住宅環境においてもコニュニティースペース(コミュニケーションスペース)の促進、また規定を設ける。

 

◯ 持続可能な地域づくりを支援するためにもRESASなどの地域経済分析システムにも「孤独」を反映させる。

 

【参考・引用】

1 Perlman D., Peplau L. A. (1981). Toward a social psychology of loneliness. In Duck S. W., Gilmour R. (Eds.), Personal relationships in disorder (pp. 31–56). London: Academic Press

2 Townsend,P.(1963). Isolation, Desolation, and Loneliness. E, Shanas, P. Townsend and D.Wedderburn et al, (Eds.), Old People in Three Industrial Societies (pp. 258-287). London: Routledge & Kegan Paul

3 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度の推進について ①改正困窮者自立支援法について」https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000340726.pdf