《質問》

「袴田事件」の報道に関する質問主意書


本年十一月十八日の朝日新聞において、「死刑確定判決の『矛盾示す証言』 袴田事件再審弁護団」との見出しで、「静岡県で一九六六年に一家四人が殺害され、放火された事件で死刑が確定した袴田巌(いわお)死刑囚(七七)の第二次再審請求に絡み、同僚が事件当時、『(現場近くの)寮から消火活動に向かったところ、袴田(死刑囚)が後ろからついてきた』と証言していたことがわかった。確定判決は、事件直後に袴田死刑囚を見た者はいないとしていた。静岡地検が今年七月に開示した証拠一三〇点の中に含まれていたという。
 確定判決では、袴田死刑囚は六六年六月三〇日午前一時過ぎ、静岡県清水市(現・静岡市清水区)のみそ製造会社の専務宅に侵入し、四人を殺害、放火した。出火は午前一時五〇分ごろで、午前二時半ごろに鎮火した。判決は犯行前日の午後一〇時半ごろから鎮火近くまで、袴田死刑囚を見た者は認められないと認定していた。
 弁護団によると袴田死刑囚は当初、『出火当時は寮で寝ていた』と供述しており、『同僚の証言は供述を裏付ける』とみている。来月二日には、検察側と弁護団双方が再審開始の是非を争う最終意見陳述書を提出する。弁護団はこの証言が確定判決の矛盾を示すものとして、最終意見に盛り込むか検討中とみられる。
 弁護団は、犯行時の着衣とされる『5点の衣類』について『捜査機関の捏造(ねつぞう)』としており、DNA鑑定の結果などを最終意見陳述書で示す予定。同僚の証言とともに、再審開始のための『無罪を言い渡すべきことが明らかな新証拠』と認められるかどうかが焦点になる。」との報道がなされた。
 

 右の報道を踏まえ、以下質問する。



一 右の報道を法務大臣は承知しているか。


二 右の報道で指摘されている新証拠は、「静岡地検が今年七月に開示した証拠一三〇点の中に含まれていた」とあるが、それは事実か。


三 被告人に有利な証拠が隠されることにより、事実を誤認して人を処罰することを防止するため、公判前整理手続等に付された事件に限定されず、有罪判決確定後の再審請求事件を含めた、全ての事件に適用される全面的証拠開示規定を創設すべきであると考えるが、改めて全面的証拠開示に対する法務大臣の見解を問う。


四 右の報道にある新証拠以外にも、「DNA鑑定結果」など、数多くの袴田さんの無実を証明する証拠が存在すると承知するが、過去のいわゆる「冤罪事件」の反省から、法務大臣として傍観するのではなく、適切に対処すべきと考えるが見解は如何に。


五 一般論として、法務大臣が現在訴訟係属中、また再審請求審係属中の事件にかかわる事柄についての答弁を差し控えなければならない理由は如何に。


 右質問する。




《答弁》

「袴田事件」の報道に関する質問に対する答弁書



一について

 御指摘の報道については承知している。


二及び四について

 現在再審請求審係属中の刑事事件に関わる事柄については、お答えすることを差し控えたい。


三について

 御指摘の「全面的証拠開示」を内容とする制度を導入することについては、関係者の名誉・プライバシーの侵害、罪証隠滅、証人威迫等の弊害が生じる場合があることや、国民一般から捜査への協力を得ることが困難になるおそれがあるなどの問題があり、慎重に検討する必要があると考えている。
 また、再審請求事件において、御指摘の「全面的証拠開示」を内容とする制度を導入することについても、やはり関係者の名誉・プライバシーの侵害の弊害等同様の問題がある上、再審が通常の刑事裁判手続を尽くして確定した有罪判決を覆す非常救済手続であり、再審請求事件の手続が公判手続と異なる構造を有していること等をも踏まえる必要があることから、慎重な検討を要するものと考えている。


五について

 御指摘の「現在訴訟係属中、また再審請求審係属中の事件にかかわる事柄についての答弁」を含む、個別の刑事事件に関するお尋ねに対する答弁においては、憲法第七十六条、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第四十七条及び第五十三条、刑事確定訴訟記録法(昭和六十二年法律第六十四号)等の趣旨を総合的に勘案して対応しているところである。