《質問》

一九六○年の日米安全保障条約改定時における核持ち込みに係る密約に対する安倍晋三内閣の認識に関する質問主意書





二○○九年九月十六日、当時の鳩山由紀夫内閣における岡田克也外務大臣は、以下の四点に関し、いわゆる密約があったと言われていることにつき、外務省において「いわゆる『密約』問題に関する有識者委員会」(以下、「委員会」という。)を立ち上げ、同年十一月末を目処にその存在の有無を徹底調査する旨の大臣命令を同省に出したと承知する。


① 一九六○年一月の安保条約改定時の、核持ち込みに関する密約

② 同じく、朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動に関する密約

③ 一九七二年の沖縄返還時の、有事の際の核持ち込みに関する密約

④ 同じく、原状回復補償費の肩代わりに関する密約


そして二○一○年三月九日、岡田大臣は、「委員会」の調査結果をまと

めた報告書(以下、「報告書」という。)を公表した。

「報告書」には、①に関し、以下の記述がなされている。




第二章 核搭載艦船の一時寄港

(中略)

(四)結論

(イ)日米両国間には核搭載艦船の寄港が事前協議の対象か否かにつき明確な合意はない。他方、この問題の「処理」については合意がないわけではない。

(ロ)日本政府は、米国政府の解釈に同意しなかったが、米側にその解釈を改めるよう働き掛けることもなく、核搭載艦船が事前協議なしに寄港することを事実上黙認した。日米間には、この問題を深追いすることで同盟の運営に障害が生じることを避けようとする「暗黙の合意」が存在した。

(ハ)序論における密約の定義によれば、日米両政府間には、安保改定時に姿を現し、その後一九六○年代に固まった、「暗黙の合意」という広義の密約が存在。

(ニ)日本政府の説明は、嘘を含む不正直なもの。民主主義の原則から、本来あってはならない。ただしその責任と反省は、冷戦という国際環境と国民の反核感情との間の容易ならざる調整を踏まえるべき。

(ホ)今回の調査で利用できた外務省文書の量と質はこの問題の構造を大まかにつかむのに十分なもの。それでも重要部分に欠陥があり、解明できないところが残った。そうなった経緯に関する事情調査と重要文書の管理に対する深刻な反省が必要。

右を踏まえ、以下質問する。




一、 前文で触れた、①の密約に関する「報告書」の内容に対する安倍晋三内閣の認識如何。右は事実を反映したものであると認識しているか。


二、 安倍内閣としても、①の密約はあったと認識しているか。


三、 「委員会」としても、外務省、政府としても、①の密約があったことを明確に認めている。しかし、過去に鈴木宗男元衆議院議員が提出した質問主意書に対する政府答弁書では、①の密約の存在を明確に否定し、福田康夫、麻生太郎各内閣においては、①の密約はなかったとの虚偽の答弁が繰り返されてきた。例えば内閣衆質一七一第六一二号の政府答弁書には「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号。以下「日米安保条約」という。)の下での核兵器の持込みに関する事前協議制度についての日米間の合意は、日米安保条約第六条の実施に関する交換公文及びいわゆる藤山・マッカーサー口頭了解がすべてであり、秘密であると否とを問わずこの他に何らかの取決めがあるという事実はない。」とある。かつて自民党政権が、右のように虚偽の答弁をし、国民に嘘をついていたことに関し、安倍内閣としてどのような認識を有しているか。


四、 安倍内閣として、「報告書」の内容を踏まえ、今後①の密約に関し追加的な調査を行い、国民に更なる情報開示を図る考えはあるか。


五、「報告書」には「それでも重要部分に欠陥があり、解明できないところが残った。そうなった経緯に関する事情調査と重要文書の管理に対する深刻な反省が必要。」との指摘がなされている。安倍内閣において、右の指摘は教訓としてどのように活かされているのか説明されたい。



 

 右質問する。




《答弁》

一九六〇年の日米安全保障条約改定時における核持ち込みに係る密約に対する安倍晋三内閣の認識に関する質問に対する答弁書



一から四までについて

     いわゆる「密約」問題については、この問題により、外交に対する国民の理解と信頼が失われているとの観点から、過去の事実を徹底的に明らかにするため、平成二十一年九月から外務省が徹底した調査(以下「外務省調査」という。)を行い、その結果を平成二十二年三月に公表したところである。この結果は徹底した調査によるものであり、お尋ねのような調査を更に行う考えはない。
     また、「いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会報告書」では、核搭載艦船の寄港について「広義の密約」があったとの見解が示されているが、他方で、外務省調査の報告書は、「核搭載艦船の領海通過、寄港を事前協議の対象から除外するとの日米間の認識の一致があったかどうかについては、それを否定する多くの文書が見つかった。現実はむしろ、この点について日米間で認識の不一致があったということと思われる。」としている。
     当時の状況については、簡単に判断できるものではなく、「いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会報告書」においても、外交には、ある期間、ある程度の秘密性はつきものであるとした上で、外交に対する評価は、当時の国際環境や日本国民全体の利益・国益に照らして判断すべきものである旨述べられている。しかし一方で、この問題が、これほどの長期間にわたり、国民に対し、明らかにされてこなかったことは遺憾であると考えている。政府としては、今後とも、国民と共に歩む外交を実践し、国民の負託に応える外交の実現に努力していきたいと考えている。

五について

     外務省としては、引き続き文書管理体制の強化・改善を進め、国民の信頼回復に努めてまいりたい。