『いつもそこにあるなかなか見つからない宝物』from こどもの体温 | 仕事とマンガと心理学

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心理カウンセラーが語るマンガと小説についてのブログです。
心理学でマンガをみるとオモシロいので、それを伝えたくて
ぐだぐだお送りしますので、楽しんでくださいね!

こんにちは、プロフェッショナル心理カウンセラーの織田です。

今日はこの作品を。

 

 

「こどもの体温」

 

作者のよしながふみさんは、今は「大奥」が有名かな?

この方の作品は、設定が大胆で印象的。

決して奇を狙っているわけじゃなさそうですが

ちょっとリアルとは断層があることが

多いんですけれど

この作品は、設定的には至って「普通」。

 

普通っていうのは、マンガ的に普通なんじゃなくて

リアルに普通。

 

日常の中の人の想いを

丁寧に、とても丁寧に

物語にしていて、

けっしてドラマティックじゃないんですけれど

生きている体温が伝わってくる。

 

そう、まさしく「体温」なんです。

 

この作家さんのマンガは

空間が物語っている

まさしく「マンガ」なマンガで

台詞の無いシーンが

一番印象に残るから

こういうブログでは実は扱いづらいんですけれど^^)

 

でも、とっても心理カウンセリングな物語。

それは、言葉にならない「風景」が

実はココロの物語の中核にある。

そういうところ。

 

心理カウンセリングっていうのは

言葉がお仕事道具なので

言葉を磨くのに色々工夫します。

けれども、本当に心の中に大事にしまわれるのは

どちらかというと言葉ではなくて

一瞬で過ぎ去るワンシーンだったりするのです。

 

このマンガは連作になっており

一応、主人公は設定されていますが

その主人公たちの周囲の人間たちを

ごくごく普通に扱っています。

 

一番好きなのは

 

主人公の子どもがまだ小さい頃なんでしょう。

何かで叱られているシーン。

子どもが泣いていて、

お父さんが怒っていて

お父さんのモノローグが入るんだけれど

そこに別に愛の言葉とか

親子の情とか教育とかが

入っているわけじゃないんだけれど

泣いている子ども

怒った顔のお父さん

やがて子どもはごめんなさいを言い

お父さんは子どもを抱きしめる。

 

本当にただ、それだけなんだけれど。

 

きっと、多くの人が経験しながら

別に取り立てて覚えているとか

何もないんだけれど。

 

泣いている子どものにおいがする。

素足で立っているお父さんの

床の堅さと温度が伝わってくる。

ごめんなさいを言う時の

何ともいえない「ごめんなさいの気持ち」と

ちょっと漂う甘さ。

 

もうしないんだぞ、という終了の言葉が

優しく聞こえて

もう絶対するもんかと堅く思う(すぐ忘れちゃったりするんだけれど)

 

それだけが、そのことが

ぽつんと乾いた大地に落ちる

一粒の水滴のようで

それは、大地を湿らすことはないんだけれど

ああ、水があるんだって思い出させてくれる。

 

たった一滴の水がない絶望じゃなくて

大丈夫、まだ大丈夫と

語りかけてくれるようで。

 

だから、このマンガは大好きです。

そう、ごうごうとした熱はないけれど

離れればすぐに冷めてしまうぐらいの

微温なんだけれど

そのほのかな体温が嬉しくて

読み返してしまうマンガなのです。