「あなたのせいじゃないよ」 | 12枚の羽根の歌

12枚の羽根の歌

生きることは踊ること!

9/24・25の2日間、ジュディス・ウィーバー博士による「周産期心理学」ワークショップの通訳をつとめさせていただきました。
深く、宝物のような体験でした。

「周産期」とは、出生とその前後を含む期間をさす言葉。
今回のワークショップは、講義も交えつつ、受精卵となってから母の胎内で育ち、誕生し、この世で赤ちゃんとして生きていく時期に体験したことが、いかにその後の人生に影響していくかということについて、感じていくものでした。

印象的だったことはたくさんあるけれど、
中でもとても心に残っているのが、「コミュニケーション、つながりが大事」ということ。

かつて、胎児も新生児も「何も感じない」存在だと思われていたのだそうです。
だから、極端な話、新生児の手術は麻酔なしで行うのが常識ですらあったとか叫び

とんでもない!!!

「感覚」は「意識的に考える」ことよりもずっと早く生じていて、しかも、しっかり記憶されていることが、現在の最先端の研究で証明されているそうです。
赤ちゃんは胎内にいる時から、とても知的な存在。
胎児にとってお母さんは全世界なので、お母さんが感じていることを、赤ちゃんも感じている。
でも、じゃあたとえば、お母さんがひどいショックを受けたり、ストレス下にあったり、感情的・身体的に状態がよくなかったりしたら、それがそのまま胎児に影響を与えてしまうのか?

私自身、2人子どもを産んでいるので、とても切実なテーマでした。
だって、始終完璧でなんていられるわけがない。
だとしたら、何かネガティブなことがあるたびに、減点法で、子どもの幸せが損なわれていってしまうわけじゃないですか。

そう思ったら恐ろしくなってしまう。

でも、実際はそうではありません。

たとえショックな体験があったとしても、それによってネガティブな影響が残らないようにする方法があって、
それが、コミュニケーションなのだそうです。


たとえば、妊娠中の女性が、外を歩いていて、突然飛び出してきた自転車と危うくぶつかりそうになったとする。
びっくりして、心臓がドキドキします。
その時、胎児は母のドキドキを受けて、心拍数が母の2倍、跳ね上がるそうです。

胎児には外で何が起こっているのかわからないので、ただただ「何か危険が迫ってきた!」ということを感じています。

そこで、話しかけてあげると良いのだそうです。
「いま、急に自転車とぶつかりそうになって、びっくりしちゃったのよ。でも、ぶつからずに済んだし、もう大丈夫。怖いことはもうないのよ。安心して」

そうすると、そのメッセージがちゃんと伝わって、胎児は「もう危険がない」ことがわかり、安心する。
トラウマが残らない。


また、たとえば、両親がケンカしたとする。父親が怒鳴る声、母親が怒鳴り返す声が聞こえ、母親の胎内にいる赤ちゃんは、母親の体内で分泌されるホルモンを胎盤を通して同じく受け取るので、同じく興奮状態やフラストレーションを感じる。
それでも、その後に母親が「お父さんとこういうことでケンカしたけど、あなたのせいじゃないし、あなたのことは愛してるから心配しないでね」と話しかけてあげると、「この世の終わりではない」ということが伝わって、赤ちゃんは安心する。


そして、つわり。お母さんがつわりで苦しんでいると、赤ちゃんにはそれがわかる。そして、「自分のせいでごめんなさい」と感じることもあるそうです。
その時に、「つわりで苦しいのはほんとうだけど、あなたのことは大好きだし、あなたが悪いから苦しんでるんじゃない。あなたはあなたで、そのまま健やかに成長していってね」と話しかけてあげると、赤ちゃんは自分を責めずに、安心して成長していけるのだそうです。

細胞には二種類の機能があって、ひとつは「成長すること」、もうひとつは「身を守ること」。
両方同時にはできないので、
健やかに成長するためには、「安心感」が欠かせない。

「何が起こっていたのか」を説明することで、少なくとも、「わけのわからない不安感」がなくなります。
個人的に、不安の多くは、「何が起こっているのかわからない」ことから来ているんじゃないかと私は感じています。
事実は事実。それをどうこうすることはできないけれど、その「事実」をちゃんと伝えることで、「わからない」不安感がなくなるし、
もうひとつ大切なのは、「伝えることで不安感をなくしてあげたい」という、肯定的な意図が伝わるのだと思います。


私自身、子ども時代から大人になるまで、たくさんの不安や苦しみを経験しました。
その中には、「何が起こっているのかさっぱりわからない」「説明してもらえない」ことの不安がたくさん含まれていました。

たとえば、8歳でアメリカから日本に引っ越した時。
その前に体験した「引越し」がアパートの2階から1階に移るものだったので、「遠くに行く」ということがどういうことなのか、全くわかりませんでした。
それが、慣れ親しんだ土地から遠く離れた、文化も言葉も自然も違う土地で突然暮らすことになり、もう戻れないと知った。それがだんだんわかってきた時のショックは、言葉に尽くせないほどのものでした。

せめて、説明してくれていたら。
ショックな気持ちを、聞いてもらえていたら。

つまり、「感じる、知的な存在」として、尊重してもらえていたら。

同じ異国に引っ越すのでも、だいぶ違っただろうなと思うのです。その後15年以上も残り続けるようなトラウマには、ならなかっただろうと思うのです。


だから、私は自分の子どもたちには、何かにつけて、話しかけたり、わけを伝えたり、してきました。自分がストレス下でキレて子どもに当たってしまったりしたら、抱きしめて、「ごめんね、あんたは悪くなかった。ママが疲れてただけなの。びっくりさせてほんとにごめんね。あんたのせいじゃないんだよ」と謝りました。


ジュディスの講座でそういうコミュニケーションがいかに大切か聞けて、ああよかった、と心から感じました。
そして、帰宅して、息子たちに聞いてみました。「ママがそんな風に謝ってる時って、何を感じてるの?」

すると、10歳の長男はこう答えました。

「ママがそう言ってくれると、ほっとして、泣けるんだよ。ママが何も言わないでどっか行っちゃうと、泣けないんだよ」

なんだか、胸が熱くなりました。
私はずっと、「泣かせてごめん」とどこかで感じていました。
でも、息子は「ほっとして泣ける」と言うのです。そして、大丈夫になるのだそうです。

そりゃ、キレないのが理想です。でも、いつも完璧でいられる人なんていない。
そうなってしまった時に、傷を残さない方法が、ちゃんとあるんですね。ああ、ほっとした。

……というエピソードをジュディスに報告したら、
「素敵な話! よかったですね。息子さん、そこで泣けていなかったら、10年して、あなたのことを殴るようになっていたかもしれませんよ」

本当ですねー。。


コミュニケーションの大切さ。安心感を与えることの大切さ。感情を抑圧しないことの大切さ。
そしてこういうことは、親子の関係だけでは、もちろんありません。
大人同士の仲でも大切なこと。

なぜなら、ジュディスの言葉を借りれば、この世には2種類の赤ちゃんがいて、
それは「小さな赤ちゃん」と「大きな赤ちゃん」だからです。

赤ちゃんの部分を持っていない大人はいない。

だからこそ、周産期心理学の領域にアクセスしていくことで、大人の人生も変わっていくのですね。

長くなりましたが、あまりにも深い体験だったので、シェアせずにはいられませんでした。
お読みくださりありがとうございました。