極小規模小学校における統廃合阻止のプロセスと学校・地域活動の変化に関する研究
大阪市立大学大学院 都市系専攻修士論文梗概集
2016 年 2 月 建築計画分野 成瀬壮太

https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/111G0000009-2015-035.pdf?fbclid=IwAR2YonWvexYOLg855Pd55qWj99SgLjskrtX15k6apT-fNXdArtZmFbnPWdY

を読むと、
大前提として、保護者が現時点での極小規模学校教育に対して満足しているがあるかが問われるが、本論文対象校では保護者は満足している。
その上で、統廃合阻止に伴う学校と地域活動の変化が必要だと考える。
 
学校は児童が卒業すると保護者と疎遠な関係になる。
学校長は保護者や地域との関わりを継続するために、新しい教員の赴任時に地域へ挨拶を行うことや、学校だよりを通して行事の目的を伝えることで積極的な関わりを求めるなどの工夫を行っている。
統廃合反対を行うために新たな地域団体が発足し、それは従来の自治会枠を超えた小学校区で形成され自治会同士の結束を強くする。
学校はPTA に頼み難い内容を地域団体に依頼できることや、学校活動で地域との連携を図りたい時に、以前は誰に相談を行えば良いかわからなかったが、地域団体が集約して相談を受けられる関係が出来る。
 
KT校 では児童数確保のため子育て世代に限定して定住を促進する活動が行われる。
6 年間で 16 世帯 60名の移住の実績を作り、その資金を元に入学祝い金を贈呈する取り組みが行われる。
この成果は行政にも認められ、新たに移住者用の若者住宅団地を整備する取り組みへと発展する。
OB校では新しく移住者を受け入れる際に上手に関係を作り、従来の考え方を変えなければならないといった不安や、KT,NS校では設立した地域団体を引き継ぐ存在を育成するために若者世代をさらに巻き込んでいかなければならないといった地域固有の課題が見えてくる。
 
①学校活動の変化
NS校
児童が学ぶ過程を教員が補助するガイド学習(北っ子授業)により、自ら学びを行う習慣をつける。また、朝のドリル学習(ス
キル学習)・スキル学習の検定(北っ子検定)・教員が放課後に学習補助を行う放課後学習により徹底した支援で基礎学力の定着を行う。
放課後学習は小学校がへき地に立地し、近くに学習塾がないことから、教員が自主的に取り組んでいる。
さらに読書タイムやスピーチタイムで本を読む習慣づけや、発表力の向上も行い、小規模性を活かしたきめ細やかな教育を実践する。
OB校
教員が不完全な提示を出して仕掛けを作り先導するユニバーサルデザインの授業を古くから研究し、実践されている。
NK校
1 人学級の学年では同年代の友達づくりや対話ができないといった課題を乗り越えるために、学校長の工夫で他市の極小規模校と合同で授業をする小小連携の活動を行うようになる。
和太鼓活動を継続し、学外コンテストで幾度も優秀賞を受賞し、現在では特徴ある活動の 1 つになっている。
 
②学校地域間連携活動
KT校
新しく 3 つの学校地域間連携行事が始まる。
「やまゆりの里づくり活動」では以前は PTA が行っていたやまゆりを管理する役割を地域団体が担うようになった。
「和紙作り活動」では地域の伝統である和紙を復活させるため、地域団体と学校が協力し苗植えから和紙作りを行う新たな取り
組みを開始した。
「川遊び活動」においても同様に地域団体と学校が協力し高度な技術を持つ地域住民が講師となることで教員の負担を地域が担っている。
TT校
年間を通して 60 名程の地域住民が講師として児童たちとこんにゃく作りやひょうたんづくりを行う「ふるさと学習」や、昔あそびやゲートボールを行う「老人クラブとの交流会」といった新たな学校と地域の関わりが始まる。
上記の活動は小規模であるが故、またこれまでに築いてきた学校と地域の関係があるからこそ取り組むことができ、魅力ある授業を形成し、児童は貴重な経験を得ることが出来る。
学校地域間連携活動で多くの変化が生じているのは統廃合反対運動を行う中で地域が学校を支えていこうと決断し、積極的に学校と関わりを作ろうとしているためである。
地域の人材や環境など地域資源を活かした取り組みは、学校独自の取り組みとなり、新たな個性を作り出している。
また、運動会や学習発表会のような元は学校の行事であったが児童数と共に活気の減少が感じられ、その克服のために地域が関わりを持つ行事や、神社や地域でのお祭りのような元は地域の行事であったが、地域学習を行うことを目的に学校が関わりを持つ行事は、何十年と行事が継続する中で学校と地域の共同行事として位置づけられたため全ての行事が継続している。
このようにして生まれた地域と学校の連携は、以下のような地域づくりも活性化される。
NS校
以前から続く学校と地域の密な関わりがある環境を活かし、更に関係を発展させるためにコミュニティ・スクール事業に取り組み、公開授業や研究授業を始める。
また、長年続くあいさつ運動に携わる地域のおばあちゃんを表彰し、新聞に掲載するといった学校と地域の関係を継続させる工夫が行われる。
NK校
HP を通して少人数教育の成果を公表することが行われる。
和太鼓や水泳大会の受賞記録を発信し、特認校制度による転入学児童を集める。
KT 、 NS校
地域団体が発足し、積極的にまちづくり活動を実践する地域は更なる変化が生まれる。
未来会議は高齢者生活支援サービスを始め、自立した地域づくりに挑戦している。
郷づくり協議会は学校存続以外に地域を考える 4 つの部会を持ち、地域の神社を登録有形文化財に指定するなどの変化を起こす。
保護者についても、複式学級を参観し、「発表の機会が多く、授業を自分で進行している (NK)」というように標準規模校では行えない取り組みが行われていると判断することや、「中学校で生徒会長をやったり、バレー部でキャプテンをやったりと小規模だからこそ育つリーダーシップがある (NS)」というように卒業生の活躍を実感し小規模であるが故に育つ力があると判断することが評価に繋がっている。
 
持続性の創出
入学者 0 人が続くと学校の運営が制限されるため、NK では特認校制度を利用して児童数を確保し、学校に持続性をもたらしている。
また、OB では U ターン者、KT,NS では定住促進団地に I ターン者として子育て世代を定住させ、児童数確保だけでなく今後の地域の担い手を育てている。
また、地域団体が新たな拠点を作り、夏祭り復活などの実践的な成果を上げ、地域が活動的になる兆しをもたらす。地域が変化する実感が、地域団体の原動力となり、また新たな変化を創り、地域の持続性を創出している。
学校は全ての自治会が共有し、祭事や地域行事を行える唯一の場である。
計画発表は学校の価値を再認識させ、地域が学校行事に関わることや新たな共同行事を始めるといった変化は、教育的価値の向上だけでなく、学校の持つ公共的な価値の向上に
も繋がっている。
 
NK,TT は学校改築時に保護者や地域が携わっており、思い入れが強く自信のある学校がつくられている。
魅力ある学校づくりは極小規模校の存続の道を示している。
新しい学校づくりは地域活動にも影響を与える。
適正配置計画は地域に危機感をもたらし、団結力を生み出す。
そうして誕生する地域団体は統廃合反対運動だけでなく、やまゆり活動やふるさと学習など新たな学校との関わりを始める。
さらに若者定住促進活動や高齢者支援などの地域存続のための取り組みを行い、新たな地域づくり・地域自治のあり方を示している。
 
以下、たかひらコメント
つまり、反対運動だけでなく、保護者、学校、地域住民が一体となって、移住促進や地域での迎え入れ、特色ある地域づくりをセットとして行わずして、学校統廃合だけを行政に求めても、市子どもの自然減による単なる数値によって、統廃合に合理的理由をもたらしてしまうということだ。