午前4:30。それでも目覚めは快調だった。昨夜の就寝が遅かっにも関わらず、タバコをやめて四年は経つ身体は睡眠時間が短くても喉も心臓の不快な感覚もなく、血流もリンパの流れもいい感じ。実に快適な目覚めキラキラキラキラキラキラ

そして30分と少しのの半身浴をして、準備。

昨夜食べたガッツリフルコースでまだ胃が重かったので、何かさっぱりしたものはないかと冷蔵庫を開けると、忘れられたような熟れた柿をいくつか見つけキラキラ切れ目を入れスプーンですくって食べる。美味しかったので更にトロトロになった二つ目の皮を手で破り、スプーンですくって食べる。
ここからがマズかった。


よく熟れた柿は糖度が高く、ものすごく美味しいのだが、この糖度はまるでバブル期の焼肉屋の上カルビみたいだ。気分が悪くなったので水をがぶ飲み。三杯目を飲もうとすると、どうやらパック内に水がなくなったようなので、「なーん」と呟きストック分のダンボールに取りに行って見ると、未開封。 

これがまた粘度が高く薄い優秀なテープで剥がしにくいのなんの。イライラして無理にはがそうとすると余計にテープはダンボールにしがみついて、自分の出来の良さを執拗に誇示して勝負してくる。

そんなテープの断末魔の叫びを聞きながらやっとの思いでテープを剥がし、水のパックをダンボールから取り出し機械にセットして何気に携帯の時計を見ると、出発予定時刻のジャスト6:00。 もうマンション前に迎えに来たマネージャーから電話があるはずだ。

珍しく時間前に家を出る準備を終えて待っていると、つきましたの電話がかかってこない。玄関前でしばらく時間を潰し、もしや起床の電話を入れたあと二度寝しちまったんじゃないかと、(以前、よくやらかすマネージャーが付いてた時もあったので) 不安になって6:05に電話を入れると、「今下に到着しましたので準備できましたらお願いします。」と。
おいおいとぼけんじゃねーよ、まず謝れよ。たとえ俺は遅れたとしても、入社1年目23歳の新米マネージャーが五分とはいえ遅刻して、しかも謝らないなんて百年早いんだよと、もっともなのかどうなのかわからない、多少の理不尽も含めた、まあ社会ってものを知らしめる為にもこれは言わなければならないと荷物を抱えて下に降り、「お前が遅れてどうすんだよ」と日の出間も無くの爽やかな時間に、僕よりはおそらくさらに1時間は早く起きたであろう23歳新米マネージャーに開口一番言うと、「え、お電話しましたけど」。何い~?そんなはずはない。電話がなかったから俺からお前に電話したんだと着信履歴を見ると6:00きっかりに着信履歴が!

なぜだ?????
確かに6:05にこっちからかける時には着歴はなかった!

しかし!
それを確認したらもう完全にこちらが悪いってことになっちまう。しかも本当にこいつはちゃんと電話したんだ、こいつに罪はない。
「あれ、ほんとだ。そうか、悪かったな。」となぜか悔しくも素直に軽く、しかしちょっと口角下げ気味に小さい声で言った。



空港のカウンター。チェックインが終わって手荷物検査場に向かうと、あれ?  
チケットがない。

「チケットがないな」
「え?カウンターでもらいませんでしたか?」
「もらわなかったな」
 「え、ちょっと聞いてきます」
と23歳ラグビー出身マネージャーはだいぶ離れてしまったカウンターに向け走って行った。


 カウンターを離れる時には、その23歳に、おまえマイルが貯まるクレジットカードを作って立替金とかそれでやると良いよ、パンフ&申込書をもらえとか、セコく聞こえるかもしれないけど生活する上では意外とバカにならないんだぞとお節介を焼いていたなぁ。


しかしやつに罪はない。のに奴は俺の為にカウンターに向け走っている。

一ヶ月を超える京都滞在で重ねた美味しい出前のカツ丼と、皆で食事に行くたびに皆に食え食えと勧められ、しかも気持ち良く食べることができてしまう、今時珍しい、若い衆の基本のような律儀な体育会ラグビー部出身23歳の気持ち良い食べっぷり故に、ラグビーで培った筋肉の塊のような身体が、今や肉の塊、いやゴム鞠のようになりつつある後ろ姿は、キャリーバッグをひき、ぬき襟になった爽やかなブルーのスーツもそのままに、俺のためにカウンターに走っている。
うーん、  す、すまん!



それにしても数十秒前である。

おかしいなと思い、何度も探った全ポケットをもう一度探ると、あった。 左の内ポケットに! さっきまではレシートしかなかったはずなのに。

腹をたてるまでもいかず、またかよと自分にボーゼンとなり乍ら、彼方まで跳ねて行ったぷよぷよに電話を入れ、
「ごめん、あった!」
「あ、そうですか!わかりました!」
嫌な気持ちの欠片もない返事である。

良い奴である。
ああぁ、すまぬ。

しかし謝りすぎも良くない。
軽く、しかし親子ほどの年下とはいえ、というかその方が尚更バツが悪いのもあるが、きちんと謝意と反省の色は匂わせながらも「いや~スマンスマン。なんだか今日はそういう日みたいだなぁ。」とあくまで自分の無理やりの優位性を残した括り。

この場合このぐらいでまぁ良いか、とにかく今日がおとなしく過ぎるのを待とうと思いながら手荷物検査場でも何が起きるのか少しだけドキドキしながらも無事に通過。

こんな時に爪先に鉄板の入ったらエンジニアブーツを脱いでセキュリティチェックを通るのは情けない。


さて、昨夜のフルコースでまだ腹は一杯なのだが、甘すぎた柿の気持ち悪さを消す為に、目的地長崎への8番搭乗ゲートまでの間に何か、パンケーキやサンドイッチのような軽い気持ちでつまめる朝食を食べられるところはないものかと探すが、無い。

8番ゲートの少し先に売店が並んでいるのを発見。しかし「ラーメン、カレー、そば」屋。仕方ない、そばで良いかと注文しようとすると、今度は財布に金が無い。

ポケットには百円玉が1つと五円玉が2つと一円玉が12個。(今も機内で数えようとポケットから出し、数え終えてポケットにしまおうとしたら、五円玉が1つシートの隙間に消えていった。大事なご縁玉がぁぁ!)


仕方が無いので.屈辱と恥を堪え、23歳貧乏新米マネに千円借りてそばを注文する。僕に千円札を渡し、慌て気味に「ちょっとトイレに行って良いですか」と言い残し、「あぁ。」という返事と共に小走りにトイレに駆けて行った後ろ姿を見やり、そばが出来上がる間に周りから見えにくいテーブル席に向かうと、まだ前の客が食べ残した食器が置いたままで、水もこぼれたままになっている。

んー。でも店員はたった1人。片付けを頼むときっと蕎麦を茹ですぎるし、仕方が無いのでピンクと白の格子柄の台布巾を持ってきて拭くとそれはビショビショで、前とは比べ物にならないくらいテーブルじゅうが水浸しに。小さく溜息をついて、すいませんこれ、絞ってもらえますかと結局店員さんに声をかけ、それを持って席に戻りテーブルを拭いたけど大して水を吸わず、うーん、と思いながらも乾くだろと見ず知らずの奴が食べた食器を片付け、下げるコーナーに持って行くと、出合い頭のように「蕎麦できましたよ」と言うのでそばを取り、席に座り、
水浸しのテーブルの上に器を置いた。


僕は辛いのが好きなので、2つあった調味料の缶の1つを持ち上げ、振る。辛すぎるくらい入れておかしな気を追っ払おうと。
しかし、いくら降っても出てこない。詰まっているのかと小さな穴をんー、と見たりして更に何度も振ってみるが、出てこない。「なんだよ」ともう1つの缶を見てみると、「唐辛子」と書いてある。しかも缶の横には外から残量が見えるようになっていて、ほぼ満量。
なんだ、じゃあ出なかったのはなんだったんだろうともとの缶を見てみると空だった。しかも空だから何が入っていたのかわからない。

んーまぁ良いやと唐辛子を振ってみると、ほとんど出ない! 人目を気にせず意地になってMr.ビーンばりに振ってみたが、出てきたのはふぁさっと小~さなかけらがほんの数粒。
 詰まっているのだ!

もう唐辛子は諦めてそばを一口食べ、気持ち悪さは少しおさまったところで搭乗しようと、タッチアンドゴーの機械を通り抜けようとしたら、機械が赤く光り、ゲートが閉まる。
「な!」どうやら気が急いたのか、身体が先へ行き、チケットをセンサーリーダーにかざすのが遅かったらしい。
うぬぬぬ。

しかし人目もあるしここは冷静に一度下がってじっくりと翳し、機械のどうぞの青いライトを確認して通過。


そして搭乗。

席は6G。ビジネスクラス6列目。混んでいる。ん、ここだ、と席に座ろうとすると、隣の、もし僕が矢島金太郎なら一度は真っ向怒鳴りとばしそうな見るからに憎たらしそうなオーラを放つ、60年配のサラリーマンの方が、腕を僕の席の方にだらっと出したまま、僕が席に近づいても引っ込めようとしない。こんな光景はめずらしい。僕は多少強めに「失礼」と言うと「はあっ?」てな顔で僕を見上げる。なんだこの人⁉︎ しかも腕を引っ込めないので、もう一度「失礼」と言うと、やっと腕を引っ込める。まいったなこの気分でフライトか。まぁ良いや、気分転換したもん勝ちだと座って暫くすると、あんた何してんだばりのムードでCAさんが近づいてきてひざまづき、丁寧なんだがものすごく困った輩に話しかけるような雰囲気で、すいませんチケットを見せていただけますかと。え?6Gですけど。と言うと、
「6Gはこちらです!」と隣の席を怪訝な顔で指し、「こちらの席はこちらのお客様です」と。おいおい、皆まで言うな。わかったよ。そんなことまで普通言うか?
気まずく席を移動し、安息の6Gに座り直し、かけていたサングラスをいつも通りに外すと、手からサングラスが隣のマネジャーを飛び越えて向こうの床までいつも通りではなく飛んでいった。それをまた23歳新米マネが笑顔で拾ってくれると、やっと落ち着いた。



そして…挙句このモヤモヤを解消する為、勢いに任せて書きつけていたら、

「当機はあと10分で着陸の準備を始めます」


ええぇっ!フライト中に寝て睡眠不足を補おうと思ったのに!




と長崎空港に到着。


何だか面白くなってきちゃってね。
無事に京都に帰れるのか⁉︎




つづくえーん