人はどこまで残酷なのかと思う。

オーディエンスはどこまで身勝手なのかと思う。


918日と19日の2日間、東京ドームで行われた欅坂46のライブの様子を遅ればせながら見た時、あるシーンを目の当たりにして、そう感じずにはいられませんでした。



【欅坂46の鮮烈なデビュー】


既にご存知の方も多いと思いますが、欅坂46の歩みを振り返ってみたいと思います。


彼女たちは秋元康さんがプロデュースするアイドルグループで、今や大人気の「乃木坂46」の姉妹グループとして2015年に結成されました。結成当初のメンバーは22人です。


結成からしばらくは雑誌に出たりテレビに出たり、握手会をする「アイドルらしい」活動をしていた彼女たちですが、ファーストシングル発売で、従来のアイドルとは違うイメージを提示します。


そのファーストシングルのタイトルは、


「サイレントマジョリティー」

 

「静かなる大多数」


と名付けられたその曲の歌詞は、社会や大人に不満や疑問がありながら沈黙せざるをえないという、多くの若者の持って行き場のない感情が見事に表現され、若者の大きな支持を得ます。


曲自体もさることながら、それまでのアイドルグループには見られなかった独特でクールな振り付け、ダンスが大変大きな評判を呼びました。


特にサビの部分で、ひざまずいて2列に並んだメンバーの間を、センターのシンガーがモーゼの十戒のように歩いてくるその姿は、鮮烈なイメージとともに、それを観た人の記憶に残りました。


そのセンターを務めたのは、当時まだ14歳だったグループ最年少の平手友梨奈さん。


165cmはあろうかと言うスラリとした長身の彼女が、強い意志を感じさせる真っ直ぐな視線で前を見て、凛としたたたずまいで歩いてやってくる。その堂々した姿を見た時に、とても14歳の少女だとは思えず、大変驚いたのを記憶しています。


その曲、鮮烈なダンスが収められたプロモーションビデオ、14歳のセンターという話題もあり、曲は大ヒットします。



【大きな転機となる4枚目シングル】


その後2枚目、3枚目のシングルはアイドルらしい恋を描いた歌などがリリースされるのですが、4枚目のシングルで再び、「普通ではないアイドル観」が爆発します。


「不協和音」


という名前の4曲目のシングルは


「納得いかないまま人に同調するよりも、まわりの人と不協和音を奏でようとも、自分の心の叫びを押し殺さず、本当の自分をさらけ出そう」


というメッセージが歌われています。


20174月に発売されたこの曲はデビューシングル同様、プロモーションビデオが大変大きな話題を呼びました。


軍隊の行進を思わせるかのような振り付け、押さえつけられた感情を爆発させるかのような大きな身振り。洗練されたダンスは怒りが表現されて、もはや彼女たちは「サイレントマジョリティー」ではありませんでした。


このシングルでセンターを務めたのは、デビューシングル以来、全てのシングルのセンターを務める平手友梨奈さんでした。


デビュー曲では強い意志を感じさせる真っ直ぐな視線だった彼女が、この「不協和音」では、「立ちはだかる敵をにらみつける視線」に変貌し、大きくイメージが変化しています。アイドルというイメージからはかけ離れたその姿は、かつてのロックスターのイメージがかぶりすらします。


「曲のイメージに完全に入り込んでいる」


アイドルとしてのイメージから大きくかけ離れようとも、表現する者としての進化した姿が大きな話題を呼び、この「不協和音」は彼女たちの代表曲となります。


【しかし、事件が起こる】


「不協和音」発売後の624日に、ある事件が起きます。


欅坂46はその日、千葉幕張メッセで握手会イベントを行なっていました。CDを購入したら、希望メンバーと握手が出来るという、あのシステムです。


発売されたばかりの「不協和音」が大きな話題を呼んでいたこともあり、大勢の人が詰めかけていたのですが、平手さんのレーンで並んでいた男が発煙筒に火をつけるという事件がおきました。男はその場で取り押さえられたのですが、何とナイフも所持をしていました。


握手会は翌25日もあったのですが、平手さんは欠席(当然ですね)し、他3人のメンバーも欠席しました。


その後、平手さんは握手会イベントを欠席するようになったり、夏に行われたライブツアーで倒れたりと、何かのバランスを崩したかのように、活動が休みがちとなります。



【そんな状況と相反して】


活動が休みがちの平手さんに対して、その体調を案ずる声と共に、「やはり彼女のパフォーマンスが観たい!」とする、ファンの思いも大きくなり始めます。


時折しか顔を見せない彼女のパフォーマンスする姿が、ある種の「レア感」や「プレミア感」をともない始めたのです...


気がつけば年末を迎え、紅白歌合戦の季節となり、大きな成長と話題を呼んだ欅坂46は当然のように出場を果たします。


その紅白歌合戦で、また、事件が起きます。



【紅白歌合戦で事件が】


その年に大きな話題を呼んだ「不協和音」で紅白歌合戦に出演した欅坂46。いつも以上の張り詰めたテンションで、パフォーマンスを終えた彼女たち。普通ならばそれで終わりなのですが、その年大きく注目された欅坂46は、総合司会である内村光良さんとのコラボレーションで、再度「不協和音」の最終盤をパフォーマンスするという企画が用意されていました。


ハードなダンスと、入り込んでしまう曲。1回やるだけでも、相当消耗するはずなのですが...


その厳しい状況の中、パフォーマンスが終わりかけたその時、メンバーの鈴本美諭さんが倒れ込んでしまい、慌ててメンバーが支えるという姿がテレビに映り込みました。また、平手さんも顔面蒼白で、内村さんから声をかけられ、何とかコクリとうなずくシーンも映し出されました。


フルコーラスではないけれど、あまりに消耗の激しい曲を2回やった影響は、ありありと見てとれました。


平手さんはその後、この曲をパフォーマンスしなくなります。いや、出来なくなったのかもしれません。


【その後】


平手さんは握手会やライブ、レギュラーのテレビ番組も休みがちになります。むしろ、「出演している事の方が珍しい」という状況がデフォルトとなります。

また、頻繁にケガをするようになります。


20181月 右上上腕三頭筋損傷

20189月 ライブ中にステージから落下

201812  仙腸関節不安定症

       遠位橈尺関節痛

20199   右ひじ負傷


満身創痍の状態が、このケガの履歴でも見て取れます。


このころネットでは「彼女は怪我が多い」ということを批判的な意味を含めて言う人が増えだしました。


しかし、彼女のパフォーマンスをテレビやライブで、一度でも見たことがあるのならば、そのような事は言えないはずです。


彼女が腕を突き上げる時は、本当に天に向かって突き刺そうとして突き上げているし、腕を大きく回している時は、その腕の軌道よりもはるかに大きなものを描こうとしているし、「ダンッ!」と足を踏みしめる時は、地球そのものを蹴ろうとしています。


溢れ出るイメージを過剰なまでのパフォーマンスで表現しようとしているのですから、身体がついて来れないのではないでしょうか?

イメージを完全に表現しようとすると、身体の限界を超えてしまうのではないでしょうか?


そう考えると「怪我が多い」などとはとても言えません。


しなし、ライブツアーは平手さんが出られないから中止というわけにはいかず、センターポジションを曲ごとに他のメンバーが務める、というスタイルが、このころから定着し始めます。


色々なメンバーがセンターポジションを務めることで、グループとしての底力が上がってきて、ライブの集客も増えて行きます。



【ついに】


そしてついに、2019918日と19日、東京ドームでライブをするまでになるのです。


デビューからの集大成と言えるこのライブには、10万人の観客が詰めかけました。


オープニング、制服姿の平手さんが1人で登場し、会場は大きな歓声に包まれます。

その歓声がひとしきりおさまったところで、ステージ上のグランドピアノの鍵盤を人差し指で、ゆっくりとはじく彼女...


その一音を合図として、コンサートのオープニングミュージックがなり始め、観客は再び大歓声を上げます。


コンサートの間、彼女たちが持てる全てを発揮してパフォーマンスする姿に、観客は大いに盛り上がりました。初めての東京ドームとあって、ライブで盛り上がる定番曲を次々に披露。大きな盛り上がりと共に、ライブはレギュラープログラムを終えます。


アンコールを待つ会場は、グループのイメージカラーである緑のライトが照らされ、会場全体が薄暗い緑に包まれています。


レギュラープログラムを終えた余韻と、「これだけ代表曲をやって、アンコールは何をやるんだ?」という、期待とも疑問ともつかない感情がドームを支配し始めたころ、単音のシンセ音のイントロが始まる...


その曲は


「不協和音」


でした。



【封印が解かれた曲】


耳をつんざくような大歓声が、東京ドームを包みます。ライブでは他のメンバーがセンターを務めることはあっても、平手さんがこの曲のセンターを務めるのは、あの紅白歌合戦以来。「封印」されていた曲がここにきて解かれたのですから、盛り上がらないわけがありません。


気持ちが入り過ぎると、また身体が置き去りになってケガをしてしまうので、プロモーションビデオのように、全力でのパフォーマンスではありません。しかし抑制した動きで淡々とパフォーマンスするのですが、所々で気持ちが「ぐっ」と入りそうになり、それを抑え込むような様子が見てとれます。


悲しいまでに彼女は生来のパフォーマーなんです。


身体が反応してしまうのです。


久々に封印を解かれた曲。その興奮を爆発させ尽くし、アンコールの時間はあっという間に終わりました。


【彼女に希望を託すな!】


いいんでしょうか?



これで、いいんでしょうか?


代表曲だとはいえ、平手さんにとってはあまりに色々な思いが交錯する曲。


初の東京ドームという大舞台のアンコールでこの曲をやれば、凄まじく盛り上がるのは分かっていますが、だからと言って、この曲をリストアップするのは、果たして正しいことなのでしょうか?


どんな想いで彼女はパフォーマンスしたのでしょうか?


その視線には、真っ直ぐさや敵をにらみつける強さ、怒りではなく、疲れやあきらめのようなものが映っているように見えました。


パフォーマーとして稀有な能力を持つ彼女ゆえに忘れてしまいそうになりますが、彼女はまだ10代の女の子です。その10代の女の子が、観客の大歓声と引き換えに犠牲にしているものは、あまりに大きい。


彼女は走りたいのでしょうか?


周りの大人たちは、どこまで彼女を走らせるつもりなんでしょうか?


彼女はどこまで走れるのでしょうか?


肩にのしかかる、得体の知れない大きさの期待を、そろそろ彼女は下ろしてよいのではないでしょうか?



だから、もうこれ以上

平手友梨奈に希望を託すな!