(破局編)ユリちゃんの「京都大学医学部、医学科」合格体験記
(場面1)
高木が恋人のユキと喫茶店で話をしている。
(高木)「受験英語は名古屋大学に現役合格したから大丈夫のはず。英会話学校のECCで頑張ったし、大学の語学センターでLL機材を使って猛勉強したし、ネイティブの先生にも習った。でも、全然英語が話せる気がしないんだ」」
(ユキ)「いいじゃない。中京地区なら塾講師は大歓迎のはずでしょ?」
(高木)「もう、アメリカに行くしかないと思う」
(ユキ)「会社を退職して?そんなことしたら、帰国したとき、仕事なし、貯金なし、資格なしだよ。どうするつもり?」
「私、そんなに長くは待てない。無職の人と結婚なんて出来ない」
(高木)「そうだよね・・・」
(ユキ)「ねぇ、私と仕事とどっちが大切なの?」
(場面2)
アメリカ3日目。
(高木)「日本語が分からない人ばかり。英語の日記をつけること」
アメリカ3ヶ月目。
(高木)「今日は英語の夢を見た」
アメリカ6ヶ月目。
(高木)「国際電話をかけたら母に日本語の発音がおかしいと言われた」
アメリカ1年目。空港で。
(友人)「高木くん、すごいね。さっき話してたの中国人だよね。英語だけでなく中国語も分かるの?」
(高木)「え?ボクは中国語なんか分からないよ」
(友人)「じゃ、向こうが日本語を話せたの?」
(高木)「あれ?それも違うな。たぶん、英語だったような」
(友人)「ふーん。特別苦労しなくても英語が自然に出るんだ」
(場面3)
名古屋の大規模予備校の講師採用のための面接会場。
(男性)「ほう、高木さんはアメリカで教師をしていて英検1級ですか」
(高木)「はい」
(男性)「でも、うちの予備校にはチョット地味かなぁ」
(高木)「え?どういうことですか?」
(男性)「女性講師なら半乳(はんちち)とかシースルー。男性講師ならリーゼントとかサングラス。髭とか金属ネックレスもいいな。目立つコスチュームで売り出したいんですよ」
(高木)「はぁ」『セクハラじゃん。ここはダメだな』
(場面4)
塾の教室で生徒が高木先生と話をしている。
(男子)「高木先生、英語を身に付けるカリキュラムを作ってほしい」
(女子)「そうそう。あれを使って、こうすれば大丈夫ってヤツ」
(男子)「予備校や塾がよく示しているナンチャラ段階ってやつか?」
(女子)「うん。このプリントを順番にやれば京都大学に間違いなく合格するってやつ」
(高木)「そんなのあるわけがない!」
(男子)「でも、テレビでよくやってるじゃん」
(高木)「あんなの嘘に決まっている。本当なら全員京都大学に合格している」
(女子)「なるほど。そうですね」
(場面5)
ユリちゃんが高木先生の塾で面談している。
(ユリ)「私、京都大学の英作文で8割とらないといけないんです」
(高木)「そうだね。医学部医学科なら目標はそれくらい」
(ユリ)「でも、学校の先生が頼りなくて」
(高木)「ハッキリ言うね(笑)。文科省の調査だと高校の英語教員で準1級以上の資格を持っているのは65%。1級だと2割くらいの先生かな。それに、京大卒の教師でも合格者の平均得点は7割くらいだから8割を超える英作文の指導はそもそも無理。無理なものを求めるのは駄々っ子と同じだよ」
(ユリ)「そうなんです。分かっています。でも、予備校や塾の講師の方の経歴を調べても京大医学部卒の先生は通える範囲の塾にはいないんです」
(高木)「私も完全ではないけど、他にいないのなら応援させてもらうよ」
(場面6)
ユリちゃんと高木先生が教室で話をしている。
(ユリ)「先生、私スランプです」
(高木)「どうしたんだい?」
(ユリ)「あと1週間で入試なんですけど全くヤル気が出ません」
「先生はいつも元気だけど、何か秘訣があるんですか?」
(高木)「あるよ」
(ユリ)「え?ぜひ教えてください」
(高木)「それは、ダメかな」
(ユリ)「なぜですか?」
(高木)「日本には宗教の自由があるだろう?」
(ユリ)「え?何の話をされているのですか?」
(高木)「日本は明治維新の時に西欧から多くのことを学んだよね」
(ユリ)「はい」
(高木)「でも、どうして人類の中で西欧だけ科学技術が発展したのだろう?」
(ユリ)「よく分かりませんが、私のスランプと関係があるのですか?」
(高木)「おそらく、ギリシア哲学とキリスト教が基礎にあると言われているんだ」
「人間はマシーンじゃないから勉強ばかりしていると入れ物が壊れるんだよ」
(ユリ)「そうなんです。私、最近、気が狂うのじゃないかと思うことがあります」
(高木)「信仰が器を大きくするんだよ。だから、たくさん入る」
「ユリちゃんは医者になって人の命を救いたいんだよね」
(ユリ)「はい」
(高木)「英語圏の医者にも会うだろうね」
(ユリ)「たぶん」
(高木)「なら、一般教養としてキリスト教を知っておくと話が弾むよ」
(ユリ)「なるほど」
(高木)「大学に合格して大人になったら話をするよ」
(ユリ)「分かりました」
2日後。救急車の音が鳴り響く。
終わり